映画『アルゴ』感想 映画の虚構性と真実味

映画通っぽい人がことごとく褒めてたので、ほいほい『アルゴ』を見てきた。
※今回は途中からネタバレ感想になりますが、ネタバレ前に注記してあります。
 
これは確かに面白い!しょっぱなから手に汗握るサスペンス!最初のシークエンスの「やべぇよ…やべぇよ…」感が素晴らしかった。

予告編を見るとわりと軽快なお話という印象を受けるが、実際はもっとじっくりしたテンポだった。テンポ…というか、本編は始まるなりイランと米国の当時の国際関係の解説から入り、イランのアメリカ大使館前に暴徒が押し寄せ、一触即発状態となっている場面が凄い臨場感で描写される。予告編からはそうしたリアル寄りな肌触りがあまり感じられなかったので、出だしから不意打ちを食らったような印象を受けた。
予告編のせいで本編が楽しめなかったわけでは全くないのであまりケチはつけたくないのだが、本編の雰囲気からズレたプロモーションってどうなのかなとは思った。以前押井守の『スカイ・クロラ』が公開された際、庵野秀明を始めとするクリエイターが独自に『スカイ・クロラ』の予告編を編集・公開する企画が有った。そこで印象的だったのが、樋口真嗣による予告編だ。なんと、『スカイ・クロラ』のような暗〜い映画が、明るくお気楽なB級映画に見えるよう編集されていたのだ。編集の力とは恐ろしいものだと思ったものだ。
『アルゴ』の本編を見ながら、予告編からのギャップにそんなことを思い出していた……が、帰宅してから数年ぶりに樋口真嗣版予告を見て爆笑。長々言及しておいてアレだけど、流石に『アルゴ』の予告編をこれと並べて語るのは酷だった(笑)

 
話がズレたので少し戻す。
本編を見終えてから町山智浩の解説を拝聴したのだが、例によって周辺知識を色々知ることができて面白かった。
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主演のベン・アフレックは監督も兼ねていたのか。『アルゴ』は実在の事件を題材にした映画で、主人公も実在する人物なのだが、町山氏いわく、監督本人が味わった経験が映画内で主人公の設定に反映されているらしい。例えば本編では主人公がアルコールに手を伸ばす場面がしばしば印象的に挿入されるのだが、これは監督がアルコール依存症を患っていた経験を反映させたのだとか。ベン・アフレックがスキャンダルで俳優としてどん底を味わった後、自力で監督としてのし上がってきたというエピソードも痛快だった。
また、町山氏は本作には「映画賛歌」としての面があると言っていたが、僕はその部分でかなりグっときた。僕の感想が町山氏の解釈と一致している確証は無いので以下妄想が続くが…そうした映画賛歌としての面が象徴的だったのが、ラストからスタッフロールにかけて。あれは映画に心地良い余韻を持たせていて大変気に入った。
※ここからはネタバレになるので数行改行します
 
 
 
 
ラストからスタッフロールにかけては本当に良かった。まず、主人公の息子の部屋で『スターウォーズ』とかのフィギュアと、“偽映画”(『アルゴ』)のイラストが映される箇所。“SF映画”である『スターウォーズ』と、“偽映画”である『アルゴ』が並ぶことで、映画が持つ虚構性や絵空事としての側面、そして絵空事であるがゆえの力強さが心地よく伝わってきた。
スタッフロールでは本編映像から切り抜かれた写真と、実際のニュース番組などで流れたと思しき映像からの写真が左右に並べて映し出される。面白かったのは、新しい画像が登場する度、「本編写真」と「ニュース写真」が左右入れ替わっているようだった点。一瞬どっちがどっちだか分からなくなることで、現実と映画がそれぞれ持っている虚構性や真実味が強調されているように感じた。
また、ラストの少し前、イランから脱出する際の空港での場面も凄く良かった。それまで“偽映画”を利用した脱出作戦に懐疑的であったメガネのおっさんが、イラン人兵に対し必死に“偽映画”をPRするシーン。「所詮」“SF”/“偽映画”でしかなかったものに何かが宿った瞬間に思えた。
実質的なクライマックスはメガネのおっさんのシーンなので、すぐ後に飛行機とイラン兵の車がチェイスを始めたのには「この上さらに畳み掛けるのか!」と、あまりのサービス精神に笑ってしまった。
 
そんなわけで全編テンションの高い、非常に面白い映画だった。監督のベン・アフレックにも興味が出たので時間ができたら他の監督作も見てみたい。