『トライガン』が約25年以上ぶりにテレビアニメ化され、『TRIGUN STAMPEDE(トライガン スタンピード)』として現在第3話まで放送されています。
前提として同じアニメ版でも、1998年に放送されたマッドハウス版と今回の『スタンピード』とでは作風がかなり違います。これは、新作がキャラや世界観に捻りを加えているからという以上に、マッドハウス版が原作序盤を踏襲していたのに対し、『スタンピード』が原作中盤以降の空気感を取り入れようとしているからでしょう。
そのあたり、せっかくなので旧来のファンだけでなく『スタンピード』しか見てない人や、『トライガン』についてなんとなく気になってるけど詳しくは知らない、という人に向けてあれこれ書いてみます。できれば原作も読んでもらいたいので、原作やマッドハウス版の具体的な結末については言及しません。
野心的な再アニメ化 「3DCG」と「キャラ・物語の再構築」
『スタンピード』のアニメーション制作は、『宝石の国』や『ビースターズ』で知られるスタジオ・オレンジが担当しています。手描きではない3DCGメインのTVアニメとしては間違いなく日本最高峰の映像になっていて、思い入れのある原作にこのような形で再び出会えることを素直によろこんでいます。
トライガン、次回予告見るだけでモーションの異常さが分かると思う。30分地上波のアニメのレベルじゃない。動きに感情が乗ってるのは日本っぽくないけど、ポイントで見えを切るカットは日本的でもある。完全に世界を視野に入れたコストかけたカットで構成されてる。#TRIGUN
— もるだー (@mulder_UI) 2023年1月7日
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Trigun Stampede about to be anime of the season. I really don't want to hear anymore complaints about the CG because they worked their asses off for this action scene and how full of life the characters are. pic.twitter.com/bHsMpht3Qy
— PapaTraffy⛓️🪚 (@AxiVaughn) 2023年1月7日
映像面と同じく野心的なのが、キャラクターや世界観を大胆に再構築している点でしょう。こちらも筆者は毎週楽しく観ており、今作から入った初見勢の感想も上々なようでうれしい限り。ですが、どうも原作ファンの反応は賛否両論気味のようです。もともと強固な世界観のある作品なので、過去作に思い入れがあれば「解釈違い」などで拒否感を抱く人もいるのは理解できます。
アニメ『トライガン』(1998年版)第1話と『TRIGUN STAMPEDE』第1話 pic.twitter.com/g8YQsYsBNt
— さめぱ (@samepacola) 2023年1月8日
こうした形で再アニメ化した理由について、プロデューサーを務める武井克弘さんは次のように語っています。
自分は『トライガン』のファンなんですけど、やっぱり素晴らしい原作漫画があって、(1990年代の)アニメ版も本当にすばらしかったんですよね。もう、好きな方はそれを読み返したり見返したりすればたぶんそれで良い。原作とアニメがあれば十分だと思っていて、じゃあ何でもう一回やるかっていうと、やっぱり新しいことをすることにしか意味がないんじゃないかなと思って、新しい表現という3DCGに。3DCGといえばやっぱりオレンジさんにお願いしたいと思いました
以上を踏まえれば、『スタンピード』は原作をそのままアニメ化した作品というよりは、どちらかというと『シン・ゴジラ』などのように、聖典とされる完成された原作を別角度から再提示する作品に近いと言えます。
ここで原作ファンとして少々複雑なのは、原作『トライガン』がいままで一度も全編忠実にアニメ化されたことが無い、という点です。その上で、筆者は今回のアニメ化の手法をかなり理想的だと感じています。なぜそう思うのか、周辺情報を交えながら説明していきます。
原作と1998年版アニメの関係性
ここであらためて、原作漫画の基本情報をおさらいしましょう。
原作は1995年~2007年にかけて連載された『トライガン』全3巻(新装版では全2巻)と、『トライガン マキシマム』全14巻からなります。かつてマッドハウスによりアニメ化された1998年版のアニメ『トライガン』で原作の展開を比較的忠実になぞっているのは、実は無印『トライガン』全3巻と、『マキシマム』の第1巻あたりまでです。
トライガン、海外ファンの感想漁ってるとマッドハウス版を原作(original)と称した上で良し悪しを論ずる人が大勢いて、20年以上前にヒットした作品をリメイクするとこういう混沌とした感じでスタートを切ることになるのかという学びがある
— さめぱ (@samepacola) 2023年1月9日
マッドハウス版は当時国内外で高い人気を得ましたが、アニメ化が決定した時点で原作はまだまだ序盤でした。そのため、監督・脚本家らが原作者と打ち合わせを行い、原作のその後の構想をヒアリングした上で、アニメ版独自の結末として原作に先駆けて完結させる形を取りました。この辺の原作とアニメ版の関係性は、『鋼の錬金術師』の最初のアニメ版と、原作版のエンディングの違いを想像してもらうと分かりやすいかもしれません。
マッドハウス版でシリーズ構成を担当した黒田洋介さんによると、脚本作業の段階では全26話中7話分しか原作のストックがなかったそうです。
幸いなことに内藤先生からは「マンガはマンガ、アニメはアニメ。アニメはアニメで作品として完結させてくれ」と。「原作では生きているキャラクターも、アニメ版では死んでしまうかもしれません」と言ったら、「それでもかまわない」とおっしゃっていただけたんです。じゃあ、本当に「終わらせる気で書こう」と思って、しかもある程度はやり切ることができた。
実際、マッドハウス版では原作では存命の重要キャラクターが壮絶な死を遂げるなど、後半に行くにつれアニメオリジナルとは思えない勢いで独自のシリアス展開になっていきました。それでも原作の芯はしっかり捉えていたので、原作とは異なる展開でありながらも説得力のある、見事なエンディングを迎えています。
ここで興味深いのは、原作者・内藤泰弘先生のマッドハウス版の受け止め方です。最近のインタビューで、内藤先生は次のように振り返っています。
内藤 そのときは原作マンガが連載中の状態ですから、アニメはアニメなりの終わらせかた、盛り上げと決着の付けかたを考えなければならないわけです。そこで、アニメのシリーズ構成について構想を聞く中で「あぁ、なるほど、この話ってそうやれば終わらせられるのか!」って、そのとき初めて理解しましたね。
――自分のマンガなのに!(笑) ということは、原作マンガのクライマックスもアニメ化を経たからこそ生まれた発想だったというわけですか。
内藤 もちろん、自分がラストを描くときはアニメと同じ結末には行かないだろうとは思いましたし、実際に異なるものにはなっているのですが。連載途中のストーリーを黒田さんたちにまとめていただいて「こういう結末を描くことができる」とひとつわかったことで、広がるだけ広げた世界に道筋ができたように感じました。だからマンガ版のラストは、アニメから受けた影響でたどり着けたものだと思っています。
「新作アニメ『トライガン・スタンピード』誕生の謎と見どころに迫る。時代と次元を超えて“人間台風(ヒューマノイドタイフーン)”がやってくる!【アニメの話を聞きに行こう!】」ファミ通.com
このように、実は原作の『トライガン マキシマム』もアニメ版の内容にインスピレーションを受けながら、独自の展開として描かれていたのです。
『トライガン マキシマム』はアニメ化に向かない説
原作の無印『トライガン』は掲載誌の廃刊もあり、わりと唐突な流れで「第一部完」的に終了。『トライガン マキシマム』はその数年後を舞台に幕を開けます。
原作の、特に『マキシム』に入ってから特徴的なのは、完結に向けて作風がかなり変化していくことです。もちろん「不殺」を信条とする主人公・ヴァッシュの一貫性などは揺るがないのですが、毎回ドタバタ劇と共に颯爽と事件を解決していく序盤とは異なり、中盤から終盤にかけてはひたすら血なまぐさい異能バトルがかなりの部分を占めます。その中でヴァッシュは自問自答を繰り返し、心身ともに極限まで追い込まれていきます。常に派手なバトル描写があるにもかかわらず、同時に非常に内省的でもあり、かなり独特な作風となっているのです。
内藤先生は昨年のイベントで、原作『トライガン』について「地面に描かれた血の跡みたいに思っている」とも語っていました。
描き終わってからあらためて自分のやった仕事を見たときに、『トライガン』って地面に描かれた血の跡みたいに思っているんで。本当に苦しんで苦しんで先が分からない状態で、自分の力も分からない状態で、のたうち回って毎回描いて一個一個進んできたんですけど。みっともなさとか、未完成な部分とか、やっていった部分も含めて、あのとき生きてた僕の全てが入った血の跡ですよね。
内藤先生は『トライガン』序盤や、次回作の『血界戦線』で良質な1話完結的なエピソードを連発しており、抜群の構成力を持った作家であることを証明しています。そのため、原作『トライガン』(特に『マキシマム』に入ってから)の中盤〜終盤にかけてキャラクターの内面をドロドロとえぐっていく展開は、内藤先生のキャリア上でも異質なものであると、個人的には捉えています。
近年ヒットした『鬼滅の刃』や『スパイファミリー』などのように、ポテンシャルのある原作をなるべくそのままアニメ化してほしい、という原作ファンとしての欲求は自分にもあるので、よくわかります。しかし、『トライガン マキシマム』は『トライガン(無印)』と違い、お世辞にもそのままの映像化に向いた原作とは思えないのです。
あるいは心理描写を大幅に削り、表層的な展開をなぞる形でアニメ化することは可能かもしれません。ですが、おそらくそれは原作とは似て非なるものになるでしょう。これが、先程引用した武井プロデューサーの発言にあった「(原作やマッドハウス版が)好きな方はそれを読み返したり見返したりすればたぶんそれで良い」というスタンスへの同意、ひいては『スタンピード』のアニメ化手法への賛同につながっています。
『スタンピード』のアプローチ
『トライガン マキシマム』がアニメ化に向かない原作だからといって、原作リスペクトに欠ける翻案をされたら当然筆者も怒ります。ですが『スタンピード』は、少なくとも3話まで観た時点では、原作全体を俯瞰した上で作られた作品であることが伝わってきます。
渋谷で行われた『スタンピード』放送直前イベントでは、オレンジの和氣澄賢プロデューサーが企画初期から再アニメ化の指針となっている場面として、『トライガン マキシマム』最終巻のとあるページを紹介する一幕がありました。また、『スタンピード』が準備期間に5年以上かけた労作である、といった製作体制からも原作リスペクトのほどがうかがえます。
制作事情について自分が把握しているのはだいたい以下の通り。やはり通常の原作モノのアニメ化からすると破格の力の入れようであるように思います。
・内藤先生への企画打診は2017年
・世界観構築にあたり、近年主にハリウッド作品で活躍してきた田島光二さんがイメージボードを約400点手掛けている
・SF作家のオキシタケヒコさんがストーリー原案を担当。作中世界の歴史について、長文のWordファイル数十個にも及ぶ設定資料を作成
・ストーリー原案を元に脚本家3人によるチームがシナリオを作成
・声優の収録が行われたのは2年前(本作はプレスコ制作)
・1話放送日の時点でシリーズはまだ制作中
かく言う私も、作業中は一年近くぶっつづけで寝ても覚めてもトライガン漬けでしたけど。トイレ中も風呂でもヴァッシュやナイヴスやGHG連中のこと考えてて、仮眠中の夢の舞台もノーマンズランド、というのが延々続いたし。
— オキシタケヒコ (@TakeOxi) 2023年1月6日
コンセプトアートとストーリー原案。絵とお話。原作をひたすら読み込んだ後の、限界まで風呂敷を広げる作業。もはや何十年分のトライガンを作るつもりなんだと思える程物量。そこから絞り出す高純度の1滴が「TRIGUN STAMPEDE」の軸になっていく。
— 和氣澄賢 (@waki_kiyotaka) 2023年1月3日
田島さんとオキシさんがいたからこその本作です。
STAMPEDEの構成・脚本は日本のアニメだとほぼ見ない特殊な作り方をしています。というか業界的にはほとんどタブーの領域。やろうと思った武藤監督も強者ですが、実現するところまで持っていけた和氣プロデューサーも相当すごいですね。 https://t.co/YcYrJipAwX
— 岡嶋心 - Shin Okashima (@oksmsin) 2023年1月4日
もちろん、どれだけ準備を積み重ねたところで、原作に匹敵する仕上がりになる保証はありません。正直3話時点で確信が持てているのは原作に対するスタンスと、アニメーション表現が優れているという二点で、これからどうなるかはまだ分かりません。
アクションの見せ場を優先するあまり、第1話での着弾が異様に遅いクラスター爆弾など、引っ掛かりを覚える展開が全くないというわけではありません。これからテーマ上で致命的な解釈違いを起こし、最終回が放送される頃に筆者が怒り心頭になっている可能性もあります。そういう意味では今後の展開がどうなるにせよ、ある種のスリリングさはつきまとうでしょう。
『トライガン スタンピード』、間違いなく原作『マキシマム』の方のボロボロになっていくヴァッシュをやる気がうかがえるんだけど(画像は『スタンピード』3話と『マキシマム』6巻) pic.twitter.com/7ADTgvU0x5
— さめぱ (@samepacola) 2023年1月22日
しかしいまのところ『スタンピード』は原作にある「マジ泣きそうだよボクは!!」のニュアンスは無いので、この路線で最終的にどこに連れて行かれるのだろうかというスリリングさがある pic.twitter.com/vcs564eSqH
— さめぱ (@samepacola) 2023年1月22日
とはいえ、ヴァッシュというキャラクターを描き直す意義については、現時点で既に予感めいたものも感じています。
令和のヴァッシュ・ザ・スタンピード
もともと原作『トライガン』については、ヴァッシュというキャラクターを通して人間の普遍的な性質を描いた作品だと捉えていました。「捉えていました」と過去形なのは、今回の『スタンピード』であらためて舞台設定に触れ、作品やキャラクターが人間の性質だけでなく、人間社会の反映にもなっていたと、あらためて気付かされたからです。
残念ながら現在の日本社会は、原作の連載当時よりも経済的に明らかに困窮していますし、それだけ弱肉強食な世界観がシンプルに響くようになった、ということかもしれません。加えて、世界情勢も相変わらず「ラブ&ピース」とは程遠いものです。
原作完結時のインタビューで、内藤先生はヴァッシュというキャラクターや、作品テーマの変遷について、次のように語っていました。
もともとは『強くて腕の立つガンマンなのに、トラブルは銃じゃなくて土下座で解決する主人公』がいたら面白いなというのがあって、そのテーマを本気で突き詰めていったらこうなったというのが正直なところです。もしかしたら娯楽としてはそこを突き詰めてしまってはいけなかったかなとも思いますね。生と死がかかってくるとどうしてもお話が重くなってしまうので、もうちょっとライトに、読み切りの最初と最後で人物が変化しない水戸黄門形式というのもクレバーな方法だったかな。でも結果とことんやったので、辛い話になりましたがやりきった感はあります。
大した美学とはないですよ。ただ、ずっと物語と対峙していて思い至った結論はあります。結局人は相手の事を良く知らないから傷つけたり命を絶てたりするんだと思うんですね。相手をよく知っていたらその重みは格段に違うわけで。さっきのGoogle Earthじゃないですけど、そこに人が生活しているのをまざまざと見せ付けられたら、核ミサイルの発射ボタンをおいそれとは押せないんじゃないかと。
ヴァッシュは結局、それを地面に這い蹲る存在の目線から感じ取る存在として描くことになりました。長く生き、人と触れ合い、相手がここに存在しているというのを肌で感じて、ただひたすら自分の身に刻み流離(さすらい)続ける。そして最終的にすべての人にとってのお互いのことを知り合う、伝え合う、繋がり合うということが、いろんな暴力を抑止する力になるのではと思いまして。トライガンの中での身内という言葉には、そういう意味を込めてあります。そして結局、他人の何が分かることが一番心に刺さるかと言えば、それは痛みなんじゃないかと。
(『コミッカーズアートスタイル Vol.4』p.16「祝☆完結記念インタビュー」)
『トライガン』は普遍的な人間の業に向き合った作品なので、ヴァッシュがいつの時代であっても輝くキャラクターなのは間違いありません。ただ、普遍的であるからこそ、今だからこそヴァッシュがテレビで暴れる意味も、やはり何かしらあるのではないかと思いたくなります。
そんな期待をいだきつつ、今日放送の第4話も楽しみにしています。
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— 『TRIGUN STAMPEDE』アニメ公式/トライガン・スタンピード (@trigun_anime) 2023年1月21日
『TRIGUN STAMPEDE』
第4話「HUNGRY!」
予告動画公開📽
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ヴァッシュたちは
第三都市ジュライを目指す。
新展開を迎える第4話‼️
ニコラス・D・ウルフウッド
CV: #細谷佳正
いよいよ登場🎉
1月28日(土)23:00より
テレビ東京ほかにて放送📺#TRIGUN pic.twitter.com/47WDDBW3af