庵野さん「特撮博物館」への抱負

7月10日より東京都現代美術館で行われる「特撮博物館」。庵野さんや樋口さんが企画として関わっていることから一部で話題となっていましたが、本日その記者会見が行われ、会見の模様がニコ生で中継されました。

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バーチャル観客8,000人の記者会見 館長 庵野秀明 特撮博物館 in ニコファーレ - 2012/05/10 14:00開始 - ニコニコ生放送


庵野さんの特撮マニアっぷりは昔から有名ですが、『ヱヴァンゲリオン新劇場版』においても街並みの3DCGが往年の特撮ミニチュアを元に作られたりしてます。新劇場版の制作作業では「『タロウ』の感じが良い!」「いやいや、参考にするなら『A』でしょう!」みたいなやりとりが庵野さん、樋口さん間で繰り広げられていたという話もあるほど(詳しくは『序』と『破』の『全記録全集』に収録されていたはず)。
そんな庵野さんですが、今日の会見の最後に語っていたことが非常に良かったので、書き起こしてみました。庵野さんは本当に特撮愛に溢れた方なんですけど、その庵野さんが特撮を「消えゆくもの」と冷静に受け止めつつ、「貴重なものとして後世にのこしていきたい」と静かに、熱っぽく語りかける様は胸に迫るものがありました。動画で見れる方は是非本人の肉声で聞いてほしいです。


司会 今日はいろんな話を伺ってまいりまして、まだまだ伺いたいところなんですが、時間がまいりましたので、最後に庵野館長に今回の展覧会についての抱負を聞かせていただきたいと思います。
 
庵野 さっき鈴木さんがおっしゃってましたけど、特撮という元々僕が大好きだったものが、いま、正直消えつつあると。多分このまま消えると思います。これはもう仕方がないし、そういうもんだと思うんですけど。でも、こういうものがあったっていうのは世に残しておきたいんですね。僕がいなくなったあとも、いまの人がいなくなったあとも、いま行きている人が皆いなくなっても、これは残しておきたい。もう可能な限り残したいんです。これはその願いの第一歩でしかないんですよ。この先には国でも地方でも、どっかの企業でも、ちょっとお金に余裕があってこの趣旨に賛同してくれる団体があったら、常設的な特撮の展示が理想ですけど、それが無理でも特撮のミニチュアの保存とかそういうものをちゃんとやってくれる所があればなと。これはもう切にそう思っています。
ミニチュアだけではなく、いろんな技術の継承というのも続けていきたいんですけど、これはもう、僕個人の力でも如何ともし難いものなので。ただ、特撮が持ってた映像とその面白さとその技術というものは、もっともっと世の中に残っても良いし、広がっても良いし、なんて言うんですかね、もっと好きな人がこういう所に来てくれても良いんじゃないかなと、まあ本当に思ってます。特撮というものが基本的にいまのやつだとCGになっちゃうんで、どうしても昭和がメインになってしまいますけど、いまの子供達が生まれる前、いまの僕らくらいの大人が子供の頃に見ていたもの。鈴木さんくらいの段階の世代がギリギリ味わっていた面白さみたいなものを、可能な限り、まあ色んな制約があってできないこともあるんですが、本当にできる限りのお金と時間を使って、あとは色んな想いですね、良いスタッフの方が集まってくれて、良い展示になっていってると思います。
展示内容も本当に、いまこれができるのかというくらいギュッとつまったものになってると思いますので、とにかくそこにあるものを見ていただかないと、多分その良さというのは伝わらないと思うんですよね。こうして映像になった瞬間から、それはただの映像なので。そこにあるものじゃないんですよね。もう二次的なものですから。そういうものじゃなく、そこにあるものをまず見て欲しい。可能な限り触れて欲しい。触れるのは色々問題なんでなかなか触れてもらえないんですけど、この(ミニチュアの)東京タワーも鈑金なんですよね。

カンカンて音がするんですよ。FRP(繊維強化プラスチック)とかじゃないんですよ。そういう面白さとかですね。ここの下のビル(のミニチュア)もカンカンなんですよ。板とかじゃないんです。そういう鈑金の技術とかですね。そういう今は失われつつあるそんな凄いものというのを、できる限り色んな人に見て欲しいと思います。で、なんか良いなと思った人はそういうのを続けてくれれば良いなと思います。特撮というのは国にはあまり認めてもらえてなくて、縁があってちょっと文化庁の方にも話をしたことがあるんですけど、文化庁から見ればどうもこういうものはゴミらしいんですね。残す気はないと。お金は出さない。というのを言われてました。でも現代美術館で展示するってことはそれはもう美術品ですから。これは美術品だと言い切るぐらいのハクを付けてですね、是非国のほうもこういうものを、アニメばかりじゃなくてですね、ゲームばっかりじゃなくてですね、こういう特撮、もう失われつつあるものに関しては少しは気と、お金といったものを回してほしいなと、これも切に思います。ああ…、まそんなとこですかね。
 
司会 ありがとうございました。
 
庵野 ええ、すいません、ちょっと興奮気味で。

 
このあと庵野さんの話を受けてジブリの鈴木プロデューサーのコメントがあったり、記者の方々との簡単な質疑応答もあったりしましたが、そちらは割愛。
庵野さんは最後に「すいません、ちょっと興奮気味で」と言ってましたが、口調はとても穏やかなんですよね。しかし内に秘めるエネルギーはやはり凄い。貴重なミニチュア達がしかるべき管理を受けられず、どんどん失われていってる現状にはやはり身を切られる思いなのでしょう。僕も話を聞いていて、今度の展示会で特撮ミニチュアの文化的価値が見直されるきっかけになれば良いなと、非常に感化されてしまいました。
展示会自体も楽しみですが、樋口監督による短編映画の上映も気になりますね。公式ではクレジットが

最新特撮短編映画『巨神兵東京に現わる』(企画:庵野秀明 巨神兵宮崎駿 監督:樋口真嗣

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となっていることが一部で大きな話題となってますが、鈴木プロデューサーの話を聴く限り宮崎さんは本編には殆どノータッチらしいので、ウルトラマンに変身した庵野さんと巨神兵の着ぐるみの宮崎さんのバトルが見れるわけじゃなさそうです。残念。