『シン・ウルトラマン』は楽しいところと厳しいところが同居する忙しい映画でした。以下ネタバレを気にせず書いてますが、前提として大ヒットしてもらわないと困る作品です。庵野監督による続編実現のため、とりあえず観に行きましょう。
『シン・ウルトラマン』は欠点もある作品ですが、大ヒットして庵野監督による『○○○○○○○○○○○○○○○』と『○○○○○○○○○○○○○○』を超大作として実現してもらいたいのでこの後元気に2回目も観てきます。 https://t.co/okgtLRXPqP
— さめぱ (@samepacola) 2022年5月13日
本作にそなえて『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』を予習したのですが、特に『ウルトラQ』と『ウルトラマン』の予習は開始すぐ、ロゴマークの出現からアバンまでで思った以上に報われてうれしかったです。『セブン』オマージュは第8話(実相寺回)の肩越しの長回しが、浅見(長澤まさみ)の初出勤シーンでオマージュされてたぐらいかな?
先日見たばかりなので「狙われた街」の肩越しの長回しもちょっと思い出した。本編で見たら印象全然違うかもだけど pic.twitter.com/AmxSzBBSVe
— さめぱ (@samepacola) 2022年4月29日
キャラクターまわりでは神永(斎藤工)とメフィラス(山本耕史)がすばらしく。斎藤工は宇宙人感抜群の演技で、時折ウルトラマンの方が斎藤工に見えてくる錯覚を覚えるほどでした。メフィラス星人は登場シーンから全部良かったですが、特にブランコから居酒屋までの会話劇が秀逸。今すぐメフィラス星人版『孤独のグルメ』なスピンオフを作ってもらいたいぐらいです。
作中、観客を驚かせようとするギミックはどれも最高で、個人的に最も楽しんだのはウルトラマンのアクション。完全に“飛び人形”のウルトラマン(CG)が異常な速度でグルグル回転したり、スペシウム光線のポーズでギュイギュイッ動くふしぎ映像の数々はどれも痛快でした。
29話、地中から出てきたウルトラマンが垂直に飛んでいくのを横から追っていくカメラワークあんまり見たことないやつでおもしろい pic.twitter.com/f21vhyRvSL
— さめぱ (@samepacola) 2022年4月22日
こういう動きをCGで再現されると笑ってしまう
フィルムの物足りなさ
良いところもたくさんありましたが、『シン・ゴジラ』級の傑作にはなっていないのではないかというのが正直な感想です。一見すると「ジェネリック『シン・ゴジラ』」な画面にもかかわらず、鑑賞中の印象が(悪い意味で)そうなっていないのが初見時にとにかく不思議でした。
『シン・ゴジラ』ではカットをまたぐ際、普通の映画なら単調になりがちな会議のシーンでさえ、絶え間なく映像的な快楽が押し寄せる編集になっていました。ところが今回の『シン・ウルトラマン』では実相寺監督風な奇抜なレイアウトで一見見栄えのする画面になっているのに、いざ映画のフィルムとしてみたときに上滑りしながら進行していく印象を受けたのです。
最初は観る側が『シン・ゴジラ』的なレイアウト・編集に慣れすぎたために、こうした画面に飽きてしまったのか? とも思ったのですが。帰宅後『シン・ゴジラ』を見返すと、やはりそちらは抜群に面白い*1。
こうなった理由ははっきりとは分かりませんが、庵野さんは劇場で販売中の「シン・ウルトラマン デザインワークス」掲載の手記*2で、本作を『シン・ゴジラ』に比べかなり「フィクション寄り」に作っていると証言しています。個人的には、そんな本作のリアリティラインに、実相寺アングルの多用があまりマッチしていなかったのが一因ではないか、という気がしています*3。
また、庵野さんは『シン・エヴァ』『シン・仮面ライダー』制作のため『シン・ウルトラマン』の撮影現場にほぼ立ち会っておらず*4、編集作業についても「本来自分の職務の範疇ではないのですが、製作委員会と現場の判断に従ってやる事になりました」と、イレギュラーな参加だったと語っています。
庵野さんは本作について「実相寺昭雄監督風の画面構成が多いのは自分が指示、意図した事ではないです。少しでも面白い作品にしようと撮影された映像を紡いだ結果です」ともコメント。意地悪な見方をすると、自分で指示・意図したアングルではない実相寺“風”のアングルでは、『シン・ゴジラ』ほどの演出的効果が得られなかったのでは、とも考えてしまいます。
あとは元も子もないですが、実写パートでの予算のかけかたの違いも顕著でした。『シン・ゴジラ』では大会議室での大人数の議論が見どころの一つでしたが、それに比べ本作は狭い部屋・少人数での撮影が主でした。必ずしも『シン・ゴジラ』を踏襲する必要はないとはいえ、室内でのダイナミックなカメラワークが後退し、動きのあるショットが廊下に限定されがちだったのも画面の停滞につながったのではという気がしています。
また、役者自身が演技をしながらiPhoneで撮影し合う手法が見どころとして事前に喧伝されていましたが、こうしたショットが画質のばらつきを生むだけで、魅力的な異化効果を生んでいるとは言い難いのも残念でした。
セクハラ描写のキツさ
とはいえ、ここまでの不満点は、本作のもうひとつの問題に比べれば些細なもの。個人的に最大の減点要因は、クライマックスにあるセクハラ描写があまりにもノイズだったことです。
『シン・ウルトラマン』の没入を削がれた場面、用はセクハラなんですけど。予防線を張って批判を回避しようとしてる場面はさておいても、身体的接触を伴う方のやつは良くない意味での開き直りすらあり。「現代の組織」を描く以上は一線を引いた描写にしてほしかった。
— さめぱ (@samepacola) 2022年5月13日
初日鑑賞直後のツイート。それなりにRT・いいねされているので大勢が思うところのあったシーンではないかと思います。
本作で浅見は、気合を入れる際に“自分の尻を叩く”というキャラ付けがされています。これだけなら(叩く際にいちいち臀部をアップにするのはあまり品がないなとは思うものの)問題ないのですが、途中で2回、他人の尻を叩くシーンが出てきます。1回目は映画序盤の船縁(早見あかり)、2回目はゼットンとの最終決戦に挑む神永の尻です。
他にも「ん?」となるシーンはありました。初代『ウルトラマン』のフジ隊員巨大化をオマージュした浅見の巨大化は、登場した瞬間こそ画面の異質さが面白かったですが、ズボンを履いていた初代に比べ、ミニスカート姿を下から舐め回すアングルになったことで露悪性がマシマシ。神永がシャワーを浴びていない浅見の匂いを執拗に嗅ぐシーンもなかなか気持ち悪いものでした。
この2シーンはどちらもメフィラスに批判的なセリフを言わせることで予防線を貼ろうとしていて、単体で見ればどちらもぎりぎり“イエローカード”という印象。しかし、続く尻叩きのレッドカードと組み合わさり、体感としてはレッドが3枚以上ある読後感になっていました。
ツイート検索していて思ったけど「セクハラだ/セクハラじゃない」とツイートしてる人たちどちらも主に後者について論じていて、前者はそもそも認知すらしてないパターンが多い気がする https://t.co/sQFYzW7Ius
— さめぱ (@samepacola) 2022年5月13日
世間的には“巨大化”と“匂い”のシーンの方を「セクハラ的」と批判する声の方が大きいようですが、エロスを感じるシーンとして明示されているこちらに対し、明確にセクハラをしている尻叩きの方が悪質であると感じました。
船縁/神永の尻を叩いたのは明確に女性から女性/女性から男性へのセクハラで、男性目線でも普通に不快でした。本作では禍特対を通して、怪獣に対抗する「現代の組織」をシミュレーションする側面がありますが、もしも実際の会社組織や政府機関で同僚の尻を叩けば、男女関係なく立派なセクハラでしょう。「他人の尻を勝手に触るのはよくない」という当たり前の話です。特にゼットン戦直前の尻叩きによるノイズは強烈で、おかげで気分が全く乗らなくなりせっかくの最終決戦が台無しでした。
キスと尻叩きの謎
本作の不可解な点がもう一つ。庵野さんはインタビューにおいて、本作のゼットン戦付近で、浅見が神永に軽いキスシーンが予定されていたと明かしています。ところがラッシュ段階になり、展開の唐突さにスタッフから疑問の声が上がったことで、このシーンはカットされることに。
それを受けて以下、根拠のない邪推なのですが。実はキスシーンを削る際、急遽キャラを立たせるために考案されたのが尻叩き要素で、尻叩きや既婚設定は追撮時に加えられた後付けだったのでは? という説はどうでしょう。これならあの唐突な尻叩きシーンがねじ込まれたのにも納得……はできないが……。
【少なくとも自分の尻を叩くシーンは脚本時点であったとパンフの樋口監督インタビューに書かれているようです。痛恨の見落とし。帰宅後確認します(13時55分追記)/書かれていました >「浅見弘子が気合を入れる時に尻を叩くというのは脚本段階ですでに書かれていた重要な味付けでした」(18時3分追記)】
もう一つ不可解な点が、浅見が最初の自己紹介字に「配偶者がいる」と名乗っていることです。外星人と接する中でのイレギュラーな恋愛感情を描こうとしたのかもしれませんが、こちらについてもキスシーンをカットするのに合わせて追撮時に追加した設定であるという可能性は考えられないでしょうか……? これについては、浅見が自己紹介時に結婚指輪をしていたので、他シーンでの指輪の有無を確認できればこの説の信憑性がはかれる気がします。これから3回目を観てくるので確認してきます。
【「配偶者がいる」は指輪をしている船縁への指摘だったのではないか、という指摘をいただきました。そうだったかも……! 確認してきます(13時8分追記)/その通りでした(18時3分追記)】
面白い変な作品
いろいろと不満点を並べてしまいましたが、面白さが随所にあって完璧を求めるが故の文句ではあります。
庵野さんは「デザインワークス」の手記で、しきりにCGアニメーションを追い込みきれなかったことへの不満を述べていますが(公開初日にそんな文章が表沙汰になっていること自体なかなか凄いが……)、個人的にそこはそれほど気になりませんでした。確かにCGが粗いと感じる部分もありましたが、それ以上に動きの楽しさやアイデアがつまっているので、大きな減点対象ではないかなと。
各怪獣戦のアイデア満載のアクションをはじめ、ゼットン戦の初代『ウルトラマン』オマージュな戦闘の流れから、『2001年宇宙の旅』っぽい不思議映像が大スクリーンに映し出される様などは、まさに映画館ならではの体験でした。
やはり映画見終えた直後のオモチャ売り場は危険 pic.twitter.com/EtaCfZJgJS
— さめぱ (@samepacola) 2022年5月13日
映画館で流れている『シン・仮面ライダー』の特報も、本編への期待が一気に高まる内容。『式日』『シン・エヴァ』でおなじみの線路のカットも印象的で、庵野成分の濃さが伝わってきます。次はライダーシリーズの予習もしていかなければ。
『シン・仮面ライダー』特報