正義が危うい『ガッチャマン クラウズ』 3話まで感想

今期一番楽しみに見ている『ガッチャマン クラウズ』。監督は中村健治。スタッフを見渡すと中村監督の過去作に参加経験のある面子が多く、スタッフ間で意思疎通がうまくいってるあたりが、今作の一見奇抜に見えて骨子がしっかりしている印象に繋がってるのかも。『C』と『つり球』はどちらも終盤近くで脱落してしまったので、この機会に見ておくべきか。
 
3話まで見たところで、改めて最初から見返してみたのだが、当初意識していなかった部分に色々気付かされて非常に面白かった。清音は2話と3話で席を譲らない若者や、暴走する自動車に苛立ちを見せた際、はじめから「あちらにもやむを得ない事情があるのかもしれないではないか」とたしなめられるが、こうした両者の思考の差異は実は1話アバンの時点から何度も強調されている。分かりやすいのが、清音が電車で座っている若者に席を譲るよう迫るシーン。



初見時、てっきり清音は最初に映る腹痛に苦しむ女性に話しかけるのかと思いきや、そちらは完全にスルーしていて不思議に感じたのだが。清音は2話ではじめから物事を一面的に見がちな点を非難されるが、そうした思考が見事裏目に出ていたのがこのシーンだったのである。というかよくみるとここで席を立たされた若者はマスクをしていて、はじめの言うとおり、風邪というやむを得ない事情があったっぽい。まあはじめだったら腹痛の女性を救えたのかというとおそらくそんなことはなく、ここはGALAXが活躍しているわけだが。
同じく1話アバンに、清音が通行人とぶつかるシーンがある。


清音はぶつかって通りすぎていった相手の方を睨んでいるので、言外に相手への不満があるのが分かる。このあとすぐ、はじめも通行人とぶつかるのだが、彼女は清音とは対照的に、すぐ相手に謝っている。

 
はじめは相手を理解しようと務めることや、相手への寛容さが、物事をうまくころがすための秘訣と心得ているようだ。清音にはこうした心理が決定的に欠けているので、もっぱら視野の狭さや行動の的外れっぷりが強調される。そのため、一見すると相対的にはじめの正しさが補強されてきているようにも感じられるが、そこにはなんとなく危うさも伴う。MESSへの対応含め、今までのところ彼女の態度は事態に対し概ね有効に働いてきた。しかし、彼女がヒーローものにつきものの「悪者」と対峙した時にもうまく振る舞えるのか、わりと疑問なのである。とはいえ、その「悪者」がどんな形でストーリーに絡んでくるのか分からないのがまた面白いのだが。
なお、ガッチャマンがメインのキャラクター達以外にも多数存在すると示唆されている点などは、こうした不完全な正義の味方が各地に点在しているのだなと想像させてくれて良い。
はじめや清音の「正義」に危なっかしい側面が見え隠れするように、GALAXという、社会貢献の面で「ヒーロー」に取って代わろうとする装置にも危うさが漂う(というかこのGALAX自体、ガッチャマンメンバーの爾乃美家累が開発したものなので、彼のヒーロー活動の一環として見ることもできる)。3話において、食中毒を引き起こす疑いのある牛乳が入った自販機が、GALAXの情報提供をきっかけにかなり強引な方法で停止させられた。劇中では被害者が殆ど出なかったので結果オーライみたいなことになっていたが、視聴者においおい大丈夫なのかと思わせる強引な展開だったのは、作り手も意図してのことだと思う。
 
また、作品として理想の正義像を捻出するためにSNSだなんだと組み合わせて色々苦心している横で、宮野キャラが「メシウマwwww」とか言いながら階段からバカップルを突き落として、妙にスケールの小さな悪事に勤しんでるのは楽しい。OP映像を見ると、爾乃美家累が宮野の手に落ちるっぽいので、今後SNSをどう悪用してくるかはなかなか見もの。
そもそも爾乃美家累も、GALAXを運営することで「個人個人の顔を見ようとしない相手、報酬を抜きに誰かのために役立つことを喜びだと思えない相手、とにかく楽しくない相手みんな」が敵なのだとはっきり分かるようになった!とかなんとか言っていた。そう考えるのは自由だが、その理念に同調できない人を徹底的に排除する方向に向かえばそれはそれでディストピアなので、こちらもどうなるのか。あるいはその辺宮野につけこまれるのか。
追記:実況スレのまとめを見ていたら、宮野が爾乃美家累に擬態することで網膜認証をパスし、GALAXを悪用するのではないかという予想が。なるほど。
 
……余談だが、『ガッチャマン クラウズ』はOPがめちゃくちゃカッコイイ。OPを担当している神風動画は『ジョジョ』のOPでも良い仕事をしてたけど、最近本当に乗ってるなー。ちなみに調べてみたら、本編ではCGI監督にYAMATOWORKS森田修平氏と金本真氏が参加していた。森田氏は神風動画出身で、YAMATOWORKSの現社長(『FREEDOM』や『SHORT PEACE(『九十九』)』などで監督を務めた人)。もう少し細かく見るとCGIチーフとCGIプロデューサーに、サブリメイションという会社の須貝真也氏と小石川淳氏がそれぞれ参加している。また、助監督には柳屋圭宏氏、高橋知也氏、サトウユーゾー氏三名がクレジットされているが、サトウ氏はこれまで色々なタツノコ作品でCGディレクターを務めてきた人らしい。CGひとつとっても色々な人員が組み合わさって作られてるんだなと。メモメモ。