『リトルプリンス 星の王子さまと私』感想 王子くんに会えたあかし

めちゃくちゃ良かったです。終盤で少女が家をぬけ出してからの展開の素晴らしさに比べると、中盤までが比較的平凡ですが、ラストが素晴らし過ぎました。

わりと思い入れのある原作だったので、オリジナル要素が入るのは若干不安でしたが、原作を活かしつつ新たなお話が展開されていて好印象でした。『ヒックとドラゴン』ぶりにお気に入りの海外長編アニメに出会えた気がします。早速字幕版と3D吹替版を1回ずつ観てきました。
日本語吹替版のキャストは結構良かったですが(強いて言えば主人公の母親役と薔薇役がいまひとつでしたが)、日本版オリジナルEDはちょっといただけません。松任谷由実に恨みはないし、あの曲自体そう悪いとも思いませんが、なにせ元のED曲が素晴らしすぎるんです。本編で使われている劇伴の流れを引き継いだED曲だったのに、それをわざわざ日本版EDに差し替えてしまう配給会社のセンスが凄まじい。残念ながら字幕版の3D上映は行われていないようですが、それでも初見時には字幕版で観ることをオススメします。
ここからネタバレの感想。

少女が気を失ってからの展開について、そして王子に会ったことをお爺さんに話さなかった理由について感じたことを少し書きます。この作品に関しては感想を言葉にしてしまうのがなんだか野暮ったい気もしますけどね。
 
星の王子さま』の物語の結末を聞いた少女は、王子が子供の頃の記憶をなくした大人になってしまったのではないかと不安に陥ります。ここで面白いのは、お爺さんが王子と飛行士の別れを、暗にこの後訪れるであろう少女とお爺さんの死別を念頭に話し始めているにも関わらず、少女があくまで離れ離れになった生者の人間関係の話として受け止めている点です。
少女が気を失った後の「大人の星」の冒険では、少女の内面の問題の解消が描かれます。具体的な解消手順としては、(1)落ちぶれた大人になってしまった王子の記憶を取り戻すこと、そして(2)少女による「大切なものは目に見えない」の体感です。
死別を想定していなかった少女の当初の問題認識では「(1)」をクリアすれば万事解決のはずだったため、薔薇が枯れてしまっていたのを目の当たりにしたとき、彼女は途方にくれてしまいます。そしてそこで、記憶を取り戻した王子くんと共に朝日を見ることで「(2)」を体感するのです。本作の素晴らしい点は、王子と薔薇の繋がりを象徴する朝日や、その前に描かれた、囚われていた星々の開放という、過去出会ってきた人たちとの絆を象徴する物が、過剰に台詞で説明されることなく、この上ない映像美として、直接五感に訴えかけてくる点です。
王子と出会えたことを、お爺さんに必ず伝える。少女は王子との別れ際にそう約束するのですが、最後にお爺さんのお見舞いに行った彼女が直接そのことを伝えている様子はありませんでした。これは、一度は「くだらない」と言った『星の王子さま』の物語(≒(2))を、改めて心から信じられた姿をお爺さんに見せることが、王子に会えたことをお爺さんに伝える一番の方法であると少女が感じたからではないかと思います。お爺さんの話を本にしたことも、「なついてしまったので泣くのはしょうがない」とキツネの言葉を引用してみせたことも、そのあらわれだったのではないでしょうか。そんな少女の姿を見て、お爺さんは彼女がきっと素敵な大人になると確信するのです。
 
ところで、無垢だった王子が成長と共に純粋さを失い堕落するというモチーフは『ウテナ』のディオス(鳳暁生)を思い出しますね。「大人の星」で発見される堕落してしまった王子の声優が、吹替版では宮野真守(『スタドラ』のタクト)だったのも面白い偶然です。さらに暴走気味な個人的感想ですが、少女が小銭の瓶から発見したビー玉は『フリクリ』の水鉄砲を連想する美しさでした。

ちなみに監督のマーク・オズボーンは『カンフー・パンダ』を手がけた際に「日本のアニメのアクションのタイミングなどの手法も借りたとし、『獣兵衛忍風帖』、『フリクリ』、『カウボーイビバップ』、『サムライチャンプルー』、宮崎駿作品のようなアニメから大きなインスピレーションを受けた」と語っていたようです。
また、キツネがクリップ(大人が無価値と判断したものを原材料に作られている、子供からしてみたらそれこそ無価値なもの)をピッキング用に変形させて手錠を外してくれるシーンは「トップレス能力だ……!」と唸りました。

あと、少女がお爺さんの家へ侵入する際、裏庭の植木の中のトンネルをほふく前進で通りますが、あそこは『トトロ』オマージュっぽかった。日本版EDが松任谷由実だったのも宮粼駿リスペクトと考えれば納得……できないですね!!
ストップモーションパートもよくできてましたねー。キツネの尻尾とか王子や飛行士のスカーフとか綺麗になびいていて、初見時はストップモーションアニメ風3DCGアニメと勘違いしたほどでした。本当に紙と人形を使ったストップモーションアニメだったんですね。CGにしては質感が素晴らしすぎると思ったら。敗れたページを修復したセロテープがそのまま砂漠に張り付いてる演出など見事でしたね。
とにかく丁寧に作られた良い作品でした。エンドロールで星々が映しだされていたのも粋な演出ですね。