映画『ハーモニー』感想:なかむら監督版として好意的に見れる部分もある

ところどころ意欲的なだけに、勿体無い映画だと思いました。致命的と感じたのが、ミァハとトァンが痛い中二病患者にしか見えなかったこと。
原作では社会システムの不条理さが皮肉交じりに描写されますが、映画版ではそれが影を潜めているため、彼女らの社会に対する憤りが何に根ざしたものなのかが見えてきませんでした。この辺はいくつか感想読んだ範囲だと、玖足手帖さんが一番容赦なくツッコミを入れてました。

ていうか、これ、原作を読んでなかったらちんぷんかんぷんだったと思うんだけど。ジャングルジムの話が出てないので生府の過剰な社会リソース保護思想も映画だけではわからない。学校時代ではミァハ、トァン、キアンだけしか出てこないので、どれだけミァハが学校から浮いている異常者かっていうことも分からないし、同時にミァハを浮かせる生府学校社会の異常さも分かりにくい。

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他方で、原作の軽い百合っぷりから一変した、直球のサイコレズ描写はそこそこ独創性があって面白かったです。今回マイケル・アリアスと共同監督を務めたなかむらたかし監督は、過去に『パルムの樹』や『ファンタジックチルドレン』でメンヘラな登場人物を大量に登場させていて、メンヘラの心を癒やすことに興味がある人だと思うのですが。そういう意味では、なかむら監督が社会システムの描写よりもメンヘラ中二病患者二人の描写を優先したのは必然ともいえます。パンフのなかむら監督インタビューを読むと次のようにありました。

(制作にあたって難しかった部分を問われて)
もうひとつは、キャラクターの物語の部分ですね。たとえばミァハは、8歳の時にチェチェンで非常に悲惨な体験をしている。そして、15歳になって学園生活を送りながら、〈政府〉に反発している。この間がどうつながっているのか。これはトァンも同じで、ミァハが死に、自分は生き延びてしまってから、現在までどう生きてきたのか。そういう部分が原作では詳細には描かれていなかったので、どういうふうにキャラクターを捉えていけばいいのか、悩ましいところがありました。
――そこはどのように乗り越えていったのでしょうか。
そこはやはりミァハとトァンの関係をベースにするしかないと考えました。ミァハは、きっとその生い立ちから身体について肯定と否定の感情を持っていて、だからこそ身体を使ってトァンとコミュニケーションを取らざるをえない。そしてトァンもそれを受け入れたからこそ、2人の物語はラストに到れるのだ、というふうに考えました。

原作だと伊藤計劃が執拗に社会って窮屈だわー不条理だわーって描写をしまくるのが、ミァハとトァンの人格を把握するための手助けとなりましたが、映画では二人を掘り下げる方法として、彼女らの精神的肉体的な共鳴を幻想的に描くことを選択している。原作と行っている表現が全く別なんです。表現媒体が小説とアニメで異なるからというよりも、伊藤計劃なかむらたかしの作家性が違う、という話です。その意味では、原作から端折られ、映画版独自のサイコレズ描写に交換された部分がピタリとハマった部分もあれば、映画を構成する要素として不十分な部分もあったのではと感じます。
 

プールの描写とかあれ、『ヱヴァQ』でシンジがゲンドウに合うときのスポットライト演出くらい飛躍があって面白かったですね。たぶん本当は帰りのバス停とかで胸を触ってからかわれた程度なのに、過去にミァハとメディケアでラリった後遺症で記憶が改変されてプールに場所が置き換わってるんじゃないでしょうか。そういえば舞台挨拶でミァハ役の上田麗奈さんが、プールのシーンはミァハがまず飛び込み、トァンがそれに惹かれて引っ張られ、キアンは飛び込めずに見守るという三人の関係性を表した印象的なシーンだったと紹介したところ、なかむら監督がした通りに読み取ってくれたことを喜ぶ場面がありました(舞台挨拶の模様はニコ生で確認できます。35分20秒のあたり)
ただまあ、独自解釈のなかむらワールドも展開しているとはいえ、脚本では原作の台詞を相当なぞっているわけで。それなのにトァンが喫煙や飲食で不摂生をして、ミァハの生き方を未練たらしく真似てる描写とか圧倒的に不足してるじゃないですかー、とやはり言いたくなる。映画だと髪型だけ真似て、あとは単に中二病をこじらせてグレただけに見える。
 
絵的には不満な部分が多かったです。まずキャラクターデザインが正直あまり好みではありません。なかむらさんの素朴な絵がredjuiceの絵とぶつかって変なバランスになった印象。redjuceさんはイラストだと魅力的なのに、アニメの絵に落とし込んだ途端魅力が半減するイメージがあります……。加えて、今作では登場人物が3DCG化されたときに不自然さがさらに増します(フォルムも、動きも)。同じスタジオ4℃制作の『ベルセルク黄金時代篇』を思い出しました。映画冒頭の車とドローンのドッグファイトも、『楽園追放』を観た後ではどうしても見劣りしてしまいます。『ハーモニー』に『楽園追放』のスペクタクルアクションを求めてもしょうがないといえばしょうがないんですが。でも『インターステラー』は畑のドローンとの追いかけっこはスペクタクルじゃないのにワクワクしたし……。あ、冒頭とラストに出てくる白いコンピューターのシーンや、ミァハを撃った後の風景などは美しくて良かったです。それに三木眞一郎が撃たれるシーンの洗濯物も良かったですね。
 
最後にこれはどうしても書いておかねばらなないのですが、今年発表されたなかむら監督作品『ブブとブブリーナ』が圧倒的にとにかく素晴らしいです。ネット配信の10分弱のショートアニメなので、観てないひとは是非どうぞ。
ブブとブブリーナ - 日本アニメ(ーター)見本市