内藤泰弘「『トライガン』は“地面に描かれた血の跡”」 『TRIGUN STAMPEDE』の「カムバック」ではない再アニメ化

アメリカ最大のアニメイベント「アニメ・エキスポ(AX)」で7月3日正午(日本時間)に原作者の内藤泰弘先生やメインスタッフ数名が登壇する、新アニメ『TRIGUN STAMPEDE(トライガン スタンピード)』の発表イベントがあった。

パネルはおよそ1時間に及び、スタッフらの作品への熱い思いや企画経緯が語られた。その中で、内藤先生からは「『トライガン』とは「地面に描かれた血の跡」との発言があった。

Q:『トライガン』は内藤先生にとってどういうもの?
内藤 描き終わってからあらためて自分のやった仕事を見たときに、『トライガン』って地面に描かれた血の跡みたいに思っているんで。本当に苦しんで苦しんで先が分からない状態で、自分の力も分からない状態で、のたうち回って毎回描いて一個一個進んできたんですけど。みっともなさとか、未完成な部分とか、やっていった部分も含めて、あのとき生きてた僕の全てが入った血の跡ですよね。

トライガン』は「地面に描かれた血の跡」のようだと語る内藤先生(右から4人目)

宮崎駿の『風の谷のナウシカ』がそうであるように、漫画には稀に作者が明らかに致死量以上の血反吐を吐きながら描いた弩級の作品があり、『トライガン』は自分にとってもそんな作品が並ぶ棚に入っている作品だった。なので内藤先生の言葉は意外性のあるものではなかったが、あらためて本人から聞くとやはり重みがすごかった。

そんな原作を再びアニメ化するのだから、新しいアニメに対しては期待と不安が7:3ぐらいの心持ち。不安がもっと大きくなってもおかしくないようなところ「3」で済んでいるのは、制作スタジオが『宝石の国』のオレンジであることと、これまでのスタッフたちの発言から原作への思い入れの大きさが伝わってきているところが大きい。原作からの「解釈違い」に拒否反応が出てしまわないか怖いが、まずは本編を観るまでは信じて待ちたい。

 

個人的にアニオリ要素に拒否反応を持つほうではないので、今日公開されたPVなどは「大胆に変えてきたな!」と好意的に受け取ったが、Twitterを見ていると思った以上に原作からの絵柄やキャスト変更に不安・怒りを訴える反応が目立つ。それだけ原作への思い入れの強いファンが多いという証明でもあり、本編が公開されるまではこの状況が続くのかなとも思う。

Twitter上では「髪型が“トンガリ”じゃないのが許せない」との声もいくつか見かけ、さすが20年以上『トライガン』の古傷を引きずってきたオタクたち……! と、その激高ぶりに感じ入ったりもしたが、実はヴァッシュはサイヤ人のように生来ツンツンの髪型というわけではなく、原作でもシャワー上がりに髪をセットする前などはふわふわの髪型で登場している。

トライガン』第2巻(ヤングキングコミックス版)110ページより

また、ティザービジュアル公開時にヴァッシュの賞金額の桁数が「間違っているのでは」と話題になっていたが、「600億$$(ダブドル)」はヴァッシュの名刺代わりともいえる肩書で、このスタッフ陣がそこを間違えるとは考え難い。

7月3日に公開されたヴァッシュの新ビジュアル。懸賞金額が「600万$$」。よく見ると「デッド・オア・アライブ(生死問わず)」ではなく「アライブ」になっている

原作『トライガン』第1巻1話より。賞金額はおなじみの「600億$$」

となると「600万$$」の賞金額に減額されている今作では、ヴァッシュがトンガリ頭かつ「人間台風」と恐れられるようになる以前の物語が描かれるのかもしれない。

【追記】なおPVでは幼少期のヴァッシュは髪の刈り上げ部分まで金髪なのに、成長した姿では黒っぽくも見えるので、いきなり『マキシマム』に突入したり、原作要素をもっと横断的に組み合わせるオリジナル方向に持っていく可能性も考えられる。あと一番最初に公開されたコンセプトアートでは、トンガリ頭と真紅のコートが我々の知るヴァッシュ・ザ・スタンピードにより近いデザインとなっている。企画の最初期に描かれた画であり、内藤先生もAXのパネルでこれが作品の背骨となっていると発言していた。(7月4日追記)

先日の企画発表と同時に公開された、田島光二さんによるコンセプトアート

 

AXでのイベントの様子は作品公式アカウントのTwitterライブでも配信されたが、海外からの粗い映像中継だったこともあり、視聴者数は2000人前後。各種ニュースサイトでは追って公式発表されたキャストスタッフのコメント情報をメインに伝えているものの、今日のイベントの様子を伝えた媒体はほぼ見当たらない状況である*1

なので、以下、個人的に特に印象的だった内藤先生と武井克弘プロデューサーの言葉を抜粋してテキストに起こした。特に最後の内藤先生のコメントと、それを受けた会場の盛り上がりはぜひ映像で見てもらいたい(記事のラストに貼ってます)。

登壇者はこのほかにコンセプトアート・キャラクター原案を手掛けた田島光二さん、オレンジのプロデューサー・和氣澄賢さん。それぞれ作品への思い入れや企画への意気込みを語っていて、全編は公式Twitterアカウント上で視聴可能

 

●『トライガン』は「地面に描かれた血の跡」みたいな作品

Q:『トライガン』っていうのは内藤先生にとってどういうものですか?
内藤 描き終わってからあらためて自分のやった仕事を見たときに、『トライガン』って地面に描かれた血の跡みたいに思っているんで。本当に苦しんで苦しんで先が分からない状態で、自分の力も分からない状態で、のたうち回って毎回描いて一個一個進んできたんですけど。みっともなさとか、未完成な部分とか、やっていった部分も含めて、あのとき生きてた僕の全てが入った血の跡ですよね」
(会場拍手)
内藤 お葬式みたい…(笑)
(会場笑)
武井P そんな大変な「遺作」を、今回お預かりさせていただきます。ありがとうございます
内藤 よろしくお願いします(笑)

/動画16分20秒~

●ティザービジュアルについて

ティザービジュアル

内藤 最初に送られてきたときに、「トライガン」をどうするのか? アクション、コメディ、トリッキーな動き。これは監督のやりたいことをすごくシンプルに(表現している)。これは監督の描いたラフで作られたものなので、監督が最初に皆さんに送ってきたメッセージだと思ってもらえると良いと思います。

このビジュアルは「カミング!」ってのがすごく大事だと思ってるんですけど。「(カミング)バック!」じゃなくて「カミング!」なんです。これがすごく大事なことだと思ってます。そういうメッセージです。

/動画22分~

●武藤健司監督について

武井P 武藤さんは、僕は『宝石の国』からご一緒したんですけど。(オレンジの)和氣さんに紹介してもらって、そのお仕事ぶりを拝見して、特に3話の画コンテが上がってきたときに本当にびっくりしたんですね。ものすごい人がいるんだなと思って。なのでこの『トライガン』はもちろん「トライガンが好き」っていうのは一番なんですけど、実は武藤さんのために用意した企画でもあるっていうことも一応お伝えしておきます。

/動画29分10秒~

●再アニメ化をする意味

Q:『TRIGUN STAMPEDE』で追求したことは?
武井P そもそもなんで3DCGなのかっていうことなんですけど。繰り返しますが自分は『トライガン』のファンなんですけど、やっぱり素晴らしい原作漫画があって、(1990年代の)アニメ版も本当にすばらしかったんですよね。もう、好きな方はそれを読み返したり見返したりすればたぶんそれで良い。原作とアニメがあれば十分だと思っていて、じゃあ何でもう一回やるかっていうと、やっぱり新しいことをすることにしか意味がないんじゃないかなと思って、新しい表現という3DCGに。3DCGといえばやっぱりオレンジさんにお願いしたいと思いました。

/動画45分35秒~

●シナリオ作りについて

武井P どこまでやりますとか、どういう話をやりますというのは言えないんですけど、これだけは言えるのは、シナリオはものすごく時間をかけましたし、それには内藤先生にもすごく長い時間付き合っていただきました。
他ならる内藤先生が映像ならではのシナリオ作りをするべきだというふうに仰ってくださって。僕らが疑いを持たずその方向に進むことができたのは内藤先生のおかげ。こういうシリーズを見たら良いんじゃないかとか、こういう映画を見たら良いんじゃないかって非常に教えていただいて、非常に勉強させていただいた思い出があります。

/動画49分20秒~

●キャスティングについて

武井P 先ほどから繰り返している通り、「トライガン」を新しいものにするのが今回のミッションでした。シナリオを作って、田島(光二)さんに入っていただいて、3Dも。これは本当に別物のトライガンができるなと思いました。やはりそうなるとキャスティングも自然と前回とは違う方にお願いすべきなんじゃないかなと思って、今回はそういう方針でやらせてもらってます。
ぜひ映像をこれからゆっくり見ていただければと思います。間違いなくそこにはヴァッシュがいますし、ナイブズがいますし、自信を持ってお送りできるキャストだと思っていますので、実際の本編の演技を楽しみにしていただければなと思います。

/動画51分35秒~

●最後に

武井P 新しいトライガンを作ろうって思ったときに、武藤監督が一番こだわられたのは、やはり王道のエンターテイメントでなくてはいけないとうことを仰っていまして。新しいトライガン何ができるかなと僕らずっと考えてたんですけど、結局そこに行き着きました。『トライガン』の原点に立ち戻るという作業だったと思います。今までの『トライガン』とは違いますが、間違いなく『トライガン』になっているということは言えると思うので、ぜひ信じて楽しみに待って頂けたらと思います。

内藤 さっきのPVを見ていただいたときの皆さんの反応、本当に、本当に素晴らしかったです。昨日食べたピザの味を忘れました(笑)。今日集まっていただいている皆さん、そして中継見ていただいている皆さん、楽しみにしてくださってる方はみんな仲間だと思ってます。

大きなパンデミックがあって、もしかして、かつて『トライガン』を見ていてくれた方で、もしかしたらここに来ることができなかった人もいるかもしれないって考えて、すごく切なくなる気持ちも正直あります。

僕は、僕たちは前に進みます。もしかしたら「クランチロール」でできるようになるかもしれないので、そこで見てもらえるためにも、皆のためにも作ります。「トライガン」は前に進みます。今、今ここで、この時間、日本で作っている監督とスタッフの皆さんにどうか力を与えてください。よろしくお願いします。

/動画1時間25秒~

●突発記念撮影

司会 「ヴァッシュ・ザ」って言ったら「スタンピード」で応えてくれ! ヴァッシュ・ザ?

●公式サイト掲載の内藤泰弘コメント

トライガンスタンピード

 

トライガンがやってくる。

 

帰ってくる、ではない。やってくる。

 

25年前に起こった台風は消え去らず、穏やかな風として時を待ち、若き特異点と出会って旋風となり、膨大な解析と再構築と刷新と増幅を繰り返し、今、ごうごうとエネルギーを溜めたとんでもない竜巻に成長している。

 

とうとうこの時が来た。ようやく皆さんに叩きつけられる。

鮮烈に新しく、紛れもないトライガンが貴方の眼前に現れる。

 

ここまでやってもトライガントライガンである事をやめない。

スタッフがその核を大切にしてくれているからだろうか。

我ながら強靭な原作だと誇らしく思う。

 

さあ、準備はいいか。

ふっ飛ばされるな。

仲間たちよ

 

スタンピードに身構えよ。