NHKでエヴァ新劇場版シリーズの放送に合わせ、「全エヴァンゲリオン大投票」なる企画がスタートした。これ自体は喜ばしいことなのだが、投票リストに多くの問題が見受けられたので、記録として残しておく。
惣流・アスカ・ラングレーがいない
投票カテゴリーは「キャラクター」「台詞」「エヴァ」「使徒」と4つあり、3月27日~4月29日まで受け付けている。まず「キャラクター」の投票ページを開いて気付くのが、リストに「式波・アスカ・ラングレー」はいるのに「惣流・アスカ・ラングレー」がいない点だ。この時点でこのアンケートが無価値であることが分かる。
「全エヴァンゲリオン大投票」を謳っておきながら惣流・アスカ・ラングレーがいないの、NHKからの宣戦布告か何かか? pic.twitter.com/x0C6gdnnFf
— さめぱ (@samepacola) 2020年3月27日
言うまでもなく旧世紀版(TV版/旧劇場版)に登場した惣流アスカと、新劇場版の式波アスカは似て非なる存在であり、投票先をひとくくりにするのは極めて暴力的で、彼女らの人権を侵害する行為である。
「新劇場版」に限った投票であれば式波しかいなくても問題ないのだが、企画は「全エヴァンゲリオン」と題している以上、惣流アスカがいないのはおかしい。また、リストには新劇場版に登場しない「時田シロウ」「アスカの父」といったキャラも並んでいる。
さらに言えば、いろいろな綾波レイを「綾波レイ」とひと括りにしているのも言語道断である。少なくとも旧世紀版に登場した「1人目」「2人目」「3人目」、新劇場版『序』『破』に登場した「ポカ波」、『Q』で初登場した「アヤナミレイ(仮称)」(以下、黒波)の5人分は枠を用意する必要がある。
特に黒波は『Q』でアイデンティティーのゆらぎが印象的に描かれたキャラクターであり、彼女を「綾波レイ」の枠に押し込めるのはあまりにもひどい。企画者はちゃんと『Q』を観たのだろうか?
NHKは綾波たちの人権についてももう少し考えを巡らせてくれ。ちゃんとQまで観たのか?
— さめぱ (@samepacola) 2020年3月27日
仮に企画の分かりやすさを優先させるためだったとしても、せめて投票項目を「式波・アスカ・ラングレー」ではなく、単に「アスカ」とした上で「※惣流と式波を含む」といった注釈を付けるなどの配慮は必須だ。あるいは別々に集計し、あとから合算するといったやりかたもできたはずだ。
他もいろいろと杜撰
個人的に最も許しがたかったのは上記のアスカとレイについてだが、他にも全体的に粗が目立つ。そもそも「全エヴァ」を謳うなら貞元版のキャラや『鋼鉄のガールフレンド』の霧島マナあたりも入れて然るべきだろうと思うのだが。それを抜きにしても次のように奇妙な点ばかりが目立つ。
- 新劇場版の2号機は「2号機」「2号機(ビースト)」「改2号機β」「改2号機γ」とたくさんリストアップされているのに、旧世紀版の「弐号機」がない
- 「アスカの父」や「アスカの義母」はいるのにアスカの母「惣流・キョウコ・ツェッペリン」がいない
- ゼーレの議長「キール・ローレンツ」の名前が「キール・ロレンツ」になっている(※投票ページで修正されたのを確認/4月7日追記)
- 使徒のリストにリリスやアダムがいない
- 使徒のリストに旧世紀版の「ラミエル」「サハクィエル」「ゼルエル」などの選択肢がなく、新劇場版の「第6の使徒」「第8の使徒」「第10の使徒」などに統合されている
「キール・ロレンツ」のようなギャグみたいなケアレスミスには目を瞑るとして、最後に挙げた使徒の扱いは作品性にもかかわってくるので、笑いごとでは済ませられない。庵野監督は『破』における使徒のコンセプトについて、次のように語っている。
――第10使徒、TVの第拾九話相当の使徒もだいぶデザインが変更されています。
庵野 そうですね。あれも二転三転した結果です。もともとのデザインをベースに新しい使徒に変えたかったんです。『破』の使徒はすべて新デザインにしたかったので。そこでTVと同じく、あさりさんにスタジオに詰めてもらいました。それを本田くんに設定としてリライトしてもらってます。
顔の部分だけTVと同じなのは、やっぱり、あの顔がいいだろうと。これは同じ使徒かなって旧作を知っているお客さんを一瞬ミスリードするところからスタートして、どんどん変えていった方が面白いんじゃないか、ということですね。あさりさん、マッキー、僕で打ち合わせたときにそういったアイデアが出てきました。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集』p.365
このように、使徒のデザイン差別化の意図について明確に語っている。実際本編を観ても、デザインや演出が旧世紀版と新劇場版ではまるで異なり、ファンからしたらそれぞれに愛着がある。分けて集計したところでせいぜい項目が十数個増える程度なのに、なぜ雑な分類で頑なにひと括りにしようとするのか理解に苦しむ。
またTwitter上で指摘している人がいて気づいたが、リストに旧劇場版の量産機がないのもひどい。先行上映された『シン・エヴァ』アバンに登場する「44B」「4444C」あたりをエヴァの機体リストに入れ、「分かってる」感を出している余裕があるなら、過去作にもっとちゃんと目を向けてもらいたかった。
全エヴァ投票
— とり (@tori_555) 2020年3月27日
・『式波』はいるけど『惣流』はいない
・『2号機』はいるけど『弍号機』はいない
・Mark.04は4バリエーションもあるのに『四号機』がいない
・青い零号機改がいない
・量産型がいない
など完全に旧劇は無いものとして扱われてるんだけど、『全エヴァンゲリオン』とは… pic.twitter.com/v4llQf8uoZ
『シン・エヴァ』の公開日まで3カ月を切ったタイミングで、こうした雑さが目立つ企画を目の当たりにして少なからずがっかりした。作品が予定通り公開できるのか、新型コロナウイルスの影響でいろいろと微妙な状況のさなか、こんなネガティブな内容を記事にまとめるべきか正直迷った。しかし作品を応援する気持ちとこれはまた別の話なので、「それはそれ、これはこれ」と割り切って記事に残すことにした。
投票サイト上には「投票リストは2020年3月時点のものになります」と注意書きがあるので、もしかすると今後のアップデートで改善されるかもしれないが、既に1週間、惣流・アスカ・ラングレーがいないまま募集期間が経過している。せめて弐号機には投票させてほしい。
追記:本文を微修正。画像を追加(4月4日6時15分)