『君の名は。』感想 夢の残骸の眼差し

 『君の名は。』観てきました。隣に座ってたペアが30秒おきに喋るので、耐え切れずに10分で劇場を出て、その足で別の劇場に向かい観てきました。『シン・ゴジラ』(3回目)を品川IMAXで鑑賞した際には、隣に座ってた女性がゴジラが登場するたびに猫ひろしの「ニャー」のようなしぐさで怪獣登場の喜びを表現していましたが、それを寛容な心でスルーし通した僕が10分で席を立たざるを得なかった。それほどまでに余裕の無い状態での鑑賞を強いる、強いプレッシャーを放つ作品を作り続ける作家が新海誠なのです。
(以下、ネタバレ)

君の名は。』入場直前に撮影した土曜の新宿ピカデリーの人でごった返したロビー
 
 結論から言うと、新海誠監督の総決算のような、「ずっとこれが見たかった」という作品でした。
 過去の深海作品ではどちらかというとSFやファンタジーエッセンスが入ったものが好きでした。しかし『ほしのこえ』は絶妙だったものの、『雲の向こう約束の場所』や『星を追う子ども』は相当散漫な印象を受けました。『秒速5センチメートル』と『言の葉の庭』は美しい作品だと思いますが、せっかく大風呂敷を広げたい欲求もあるのに、ミニマルな視点に終始した作品では勿体無いのではという思いが強かった。そんなわだかまりをずるずる引きずったまま、それが解消される日が来るとはあまり思ってなかったので、素直にびっくりしました。
 
 『ほしのこえ』のように時間軸をずらすというネタを仕込みつつ、『雲の向こう』から夢から覚めたときの切なさを継承して、『秒速』のラストシーンを思わせる演出を最後で使い、『星を追う子ども』のようなファンタジーや神話性を盛り込んで、おまけに『言の葉の庭』のようなおねショタ(広義)的関係性を時間軸ずらしネタとの複合技でキメてくる*1という畳み掛け方で、もう参りましたというほかないです。
 これまでの新海作品を足し算して、足し算して、足し算した結果突き抜けた感があり、おかげでラストが何倍も清々しい。ばらばらのピースとしては新海さんの中にずっと前からあったもののようなのに、過去の作品の夢の残骸が無ければ絶対に誕生しなかった作品で、余計に感動があります*2。このことを象徴してるように感じたのが、瀧(三葉と入れ替わった状態)と三葉祖母の対話に出てくる先祖たちの遺影。三葉の祖母が「自分も若いころに同じように不思議な夢を見たことがあると」発言したことをきっかけに、瀧は先祖代々の写真を見渡し、「このこと(彗星の落下)を知らせるために、先祖たちはみんな過去同じような体験をしてきたのではないか」的な台詞を口にします。そこで映る先祖たちの遺影の眼差しが、過去作られた深海作品たちの眼差しのように見えてなりませんでした。『星を追う子ども』のアガルタでの旅は無駄ではなかった。ありがとう……ありがとう……。
 
 深海監督、これほど集大成的な作品を作ってしまったので、今後どのような作品を作っていくのか気になります。動員数としてはロケットスタートを切ったようなので、次回も大作を任されそうな感じがしますが。あと、『君の名は。』でプロデューサーを務めた川村元気さん、実写でもヒットメーカーですが、この1年で細田守(『バケモノの子』)、松本理恵(『血界戦線』)、新海誠と組んでるやばさはやばいですね。

*1:バイト先のお姉さんでおねショタ成分は発散済みかと油断していたら、最後に主人公2人の年齢が時間軸がすれたことによって3年分開くというギミックを発動させていて感服いたしました。

*2:過去作をまとめて夢の残骸呼ばわりしているようで深海ファンに殺されそう。