「『フリクリ』+2」オールナイトイベントに行ってきた

5年ぶりの『フリクリ』オールナイトイベント「『フリクリ』+2」に行ってきました。

こちらは入場者プレゼントのポストカード。ロビーの展示コーナーには関連グッズの他に、DVDboxのブックレットに掲載された今石さんのパラパラマンガや、制作発表時「月刊マガジンZ」に掲載されたスタッフコメント、企画時のメモなどが掲載されていました。スタッフコメントと企画時メモは初見だったので非常にありがたかったです。お庫出し物販コーナーも休憩時間ににぎわってました。
このイベントは5年周期でアニメスタイルが主催しているもので、初回は2005年、2回目が2010年。今回はその3回目。オールナイト上映が行われるようになったのは第2回から。個人的には前回ぶり、2度目の参加です。トークショーフリクリ全話上映→鶴巻監督お勧めのアニメ上映という流れは2回目同様でした。お勧めアニメ、前回は『マジカルエミ』の上映でしたが、今回は鶴巻さんが原画として参加されていた『雲のように風のように』と『老人Z』の2作品が上映されました。また、今回はゲストにハル子役の新谷真弓さんも登壇されました。
トークショーでは現在一番気になっている、先日『フリクリ』の原作権がガイナックスからIGへと渡った経緯について語られたのが嬉しかったです。鶴巻監督曰く、IG側からいずれは違う展開がしたいと、権利を買った報告が直接あったとのこと。直近に続編を制作するというわけではなく、鶴巻監督自身、現時点で次回作の構想は全く無いと仰っていました。仮に続編を作ることになった場合にも、IGサイドは鶴巻さんを立てているらしく、鶴巻さんのあずかり知らぬところで制作が進むということは無いだろうとのことでした。
話を聞いた感じでは、IG側からラブコールはあるものの、鶴巻さんとしては『フリクリ』の続編に興味が無さそうという印象でした。鶴巻さんの関知しないところで続編が制作されることは無さそうであるというお墨付きがもらえたのは好材料でしたが、変に続編展開してほしくないというのが率直な気持ちなので、引き続き動向を見守りたいですね。『フリクリ』や『トップ2』の世界観をゆるやかに引き継いだ新作は観たいんですけどね……。
 
以下、トークショーで個人的に面白かったお話。

鶴巻 『フリクリ』は体内時計では三年前だと言いすぎだけど、五年は経ってないだろうという作品。
新谷 そんな仙人みたいな生活してるんですか。
鶴巻 ウラシマ効果かも。
 
カレカノ』について
新谷 つばさの声、放送事故だと思いました?自分でもびっくりしました(笑)
鶴巻 『カレカノ』はスケジュールはなかったけど、声優さんの自由な演技を活かすために意図的に半プレスコみたいなやりかたをしてました。それは(アフレコ時に画面が白いことに対して)半分庵野さんの言い訳なんだけど。原作を先に読んで、リアルタイムにアニメ観た人だけがあの衝撃を味わったのでは。常識的に考えるとつばさの声はああではなかったはず(笑)
新谷 庵野さんが自分で選んだのにだんだん不安になってしまって。鶴巻さんや今石さんが大丈夫ですよ!と言ってくださった。
 
企画段階の『フリクリ
鶴巻 『フリクリ』の企画は『カレカノ』より先。当初は宇宙で戦艦が戦うようなスケールのでかい企画だった。『エンドオブエヴァンゲリオン』の後に現場が空いてしまいそうだったので、早く作業に入れる『カレカノ』をと庵野さんが名乗り出てくれた。僕自身『カレカノ』からは12話くらいで離れて、『フリクリ』の企画を詰める作業に入りました。
企画時、少年とお姉さんでどたばたさせるとなったときに、平松さんや貞本さんに説明しようとしても『エヴァンゲリオン』の印象が強すぎてミサトとシンジになってしまうんです。ハル子はもっとめちゃくちゃな、どSとも違うんだけど、ナオタにとってはSっぽいところから来るキャラ。ミサトさんは最初もっと優しいじゃないですか。貞本さんも掴みきれず困っていたんです。それで二人で観光バスみたいなのに乗っていて、「例えば新谷さん」と名前が出て。それは僕が考えるどSっぽさではなかったんだけど、圧倒的にミサトさんではないなということで。それくらいずらしてくださいとお願いしました。
ハル子はそこまで新谷さんにアテ書きしていてるわけではないです。初期の印象は松雪泰子さんと言ってました。貞本さんは松雪泰子さんと思ってデザインしてないと思いますけどね。
 
フリクリの音響
鶴巻 『フリクリ』は音響監督がいないんです。技術的な部分は中野(徹)さんがカバーしてくれたけど。僕は演出の仕事をはじめたのが『エヴァンゲリオン』からなので、庵野さんのやりかたしか知らないんですよね。その他だと幾原さんの『セーラームーン』を見学しにいったことはあるんですけど。東映はご存知の通り、音楽をどうはるか、どの曲をどこにつけるかは担当話数の演出がやる。
それで『フリクリ』では音響の演出指示は僕がやったんですけど、めっちゃ時間かかったのは覚えてます。声優さんへの指示の仕方として、こう演じてくださいと台詞を口に出してやってしまう方法もあるとは思うし、もしかすると過去ちょっとだけそうしてしまったこともあるかもしれないんだけど、なんとかニュアンスを説明することだけで役者さんに伝えられないかと。
 
ナオ太像について
新谷 『フリクリ』は榎戸さんの叙情的なところが出てますよね。
鶴巻 作る上で告白っぽいことをしないといけないんですよ。庵野さんの『エヴァンゲリオン』ほど自己投影はしてないと思うんだけど、例えば榎戸さんにあるニュアンスを伝えるときに、半ば自分の恥ずかしい話をしなければいけない。でも、後で榎戸さんがどこかでそれを話してしまったらどうしようと(笑)
新谷 タッくんって着てる服も当時監督が着てるものっぽいですよね。それと面倒見がいい。ハル子とマミ美、あんな面倒臭い女を二人も。あれが成長したら良い男になるなと思います。
鶴巻 あんまり自己投影してないから褒められても嬉しくないですよ?
小黒 いやいや今嬉しそうでしたよ!
 
IGへの『フリクリ』原作権受け渡しについて
小黒 『フリクリ』の原作権が移ったことについて伺えますか。
鶴巻 大事じゃないんですよ。正直僕も知らなかったんだけれど、IGさんから直接報告がありまして。権利を買ったんで、いずれは違う展開がしたいなーと話をされました。僕の方から動いたわけではないです。IGさんも僕のことを立ててくれていて、僕のあずかり知らぬところで作ることはないとは思うんだけど。
小黒 突然次回作があるわけではない?
鶴巻 そうですね。
小黒 実際続編をつくるとしたらどんな感じになりそうですか。
鶴巻 全然わかんないんですよね。全然アイデアないんだよな。困っちゃいますね。やりようはあるんでしょうけど、あんま考えたことがなかったんですよね。IGさんもよく考えたなと。
小黒 実写化だったらどうですか?
鶴巻 実写化面白いかもですね。全然想像もつかないな。
新谷 やっぱり曲はピロウズが良いな。
鶴巻 ピロウズは今でも聴きますし、好きですね。15年経つとバンドって結構なくなっちゃうのに、今でも凄いなと。
 
老人Z』と『雲のように風のように』について
鶴巻 『老人Z』は好きな作品で、僕自身原画で参加してるんですけど、ハルコという名前のヒロインが看護婦っぽい格好でスクーターに乗るんですね。そして敵役が老人介護用ロボット……どっかで聞いたことないですか(笑)。後になって「パクってるんですか?引用してるんですか?」って言われて気づきました(笑)。あまり見返してないんで、ほぼ同じじゃんってなったらまずいけど。見比べてみたら面白いなと思って選びました。
新谷 最近平松さんが『フリクリ』最終話のニナモの背面飛びが江口寿史さんの『ひばりくん』に無意識で影響受けてたんじゃないかってツイートしてましたけど、『老人Z』もキャラクター原案が江口さんですし面白いですね。
鶴巻 大友克洋さんと江口寿史さんは直撃で浴びてるんでしょうがないですね。
雲のように風のように』も実は原画で参加してる作品でして。作監の近藤さんの癖が出てるキャラデザインで、原画も楽しかったです。あまりアニメのDVDは持ってないんですけど、これは持ってるんです。以前も話したかもしれないですけど、持ってるのって『マジカルエミ』と自分がやってる『エヴァ』くらいなので。
小黒 『マジカルエミ』と並ぶ作品ということですね!
新谷 フリクリとの共通点は?
鶴巻 無いですが、もっと良い話です(笑)
 
最後にメッセージ
新谷 観る人によって好きなところが全然違う作品なので、観たいように観てもらえたらと思います。絵も話も話数によってテイストが違いますし、アフレコも1〜2か月に1回だったから、通して観るとそのときの気分が結構出てるなと。2話目からちょっとお姉さんっぽくやった印象があります。
鶴巻 15年も前の作品に集まっていただいてありがたいなと思ってます。当時は今しか作れないものを作ろうと、あんまり普遍性のあるものを作ろうと思ってなくて。その瞬間に消費されてもいいやと思って作ったので、それなのに結果的に生き延びてるのは良かったなと思います。次回の『フリクリ』イベントは5年後だから2020年、オリンピックの年ですか。新劇場版終わってるかな……。

 
今回のイベントでは新谷さんがゲストでいらっしゃったこともあり、新谷さんから見た当時のアフレコ現場のお話が聞けたのも嬉しかったです。合わせて、監督の音響面に関する話も聞けたのも良かったですね。余談ですが、9月27日は榎戸さんのお誕生日。日付が切り替わる記念すべき瞬間にスクリーンで『フリクリ』が観ていられる素晴らしいイベントでした。
雲のように風のように』は完全に初見でしたが、主人公の女の子が子供の心を持ったまま成長する姿がなんだかフリクリっぽく、大変面白かったです。前回のイベントで上映された『マジカルエミ』も傑作でしたし、鶴巻監督のお勧めアニメを5年おきに教えてもらうのがこのイベントの一番の楽しみになりつつあります。5年後にイベントがあれば、その際も是非駆けつけたいですね。その頃には新劇場版もひと段落して、鶴巻監督のオリジナル新作の話も聞こえてきていると文句なしなのですが……。*1
フリクリ』関連では、10月発売の雑誌「アニメスタイル007」で鶴巻監督のロングインタビューが掲載されると発表がありましたので、そちらも楽しみです。

*1:今年は『I can Friday by day!』というメガトン級の大傑作があったので良いんですが、そろそろやっぱり長編の新作も観たい!