『THE FIRST SLAM DUNK』が本年度ナンバーワン・バスケットボール・アニメーションだったという感想

『THE FIRST SLAM DUNK』……え、良くなかったですか!?よかったよ!!新宿バルトナインでは上映後に拍手が起こりました。原作ファンはもちろん、1本の映画としてまとまった構成になっているので、原作未読でも楽しめるかと。原作・脚本・監督 井上雄彦……やるじゃん!

今回の劇場版は前評判が決して芳しくなく、むしろ「炎上案件」として注目を集めていただけに、先入観をこれ以上持たないうちに自分の目で観ておきたいと思い、初日朝7時の回で観てきました。

バルトナインの入り口

 

筆者は微妙にリアルタイム世代ではなく、原作は中学のころに図書室で一度読んだだけ。通っていた学校では図書室に漫画が置かれること自体異例で、なぜか初導入されたのが『こち亀』と『SLAM DUNK』でした。昼休みに友達と単行本を取り合い、「早く次の巻読み終われよ」と小突きあったりしてました。懐かしいですね。

なので、原作に対する距離感としては「なんとなくの思い入れ」はわりと醸成されているものの、細かな「このシーンがあった/なかった」みたいな解説はできません。

 

で、映画を観た感想なのですが、表現手段としてCGを採用したのがバスケットボールという題材と120%マッチしていてとにかく抜群によかった。

パンフの松井俊之プロデューサーインタビューによると、松井Pが原作事務所に映像化の打診を行ったのが2003年。2009年に東映アニメーション内で正式にプロジェクト化し、そこからパイロットフィルムを制作して、2014年に4本目のパイロットフィルムでようやく井上先生からOKが出たとのこと。本当に満を持しての最映像化だったことがうかがえるエピソードです。

出来上がった映像を見ると表情も悪くないのですが、なにより“バスケット表現”が秀逸。試合の流れが視覚的に気持ちよく、重心移動を使ったフェイントや、不意をつくパス、指先から伝わるシュートに込められた思いなど、とにかくセリフ以外での映像としての快楽に満ちていました。

しかもこうした表現はモーションキャプチャーに頼り切ったものではなく、カメラワークやカット割り、音響や劇伴と合わさったもの。さらにそうした映像面のリソースは試合シーンにだけ向いているわけでもなくて、試合外の日常芝居も丁寧なアニメーションとなっていて見ごたえがありました。おそらく結構CGと作画のハイブリッドで作っているはずなのですが(燃え尽きてエンドクレジットを確認しそびれました)、どこまでがCGでどこが作画かあまり見分けがつかず、そのあたりも画面がうまくなじんでいたなと。

 

以下、ちょっとネタバレ。ネタバレなのか……?

予告などの事前情報が相当ちら見せしかしない方向性だったので……。個人的にはもっと見せてしまって良かったと思うんですが。

 

全編、山王戦です。原作者特権で、実質的な主役は宮城リョータ。試合中に回想が挟まり、リョータを中心としてメインメンバー5人の過去が深掘りされていきます。

この構成がまた攻めていて、5人分の過去をノルマ的にバランス良く見せようとしていない。これが本作を1本の映画としてまとまりの良いものにしていました。

あくまでリョータが中心なので、そこから無理なくミッチーやゴリの話へとスライドしていく。どう考えても人気ぶっちぎりである桜木や流川の過去をバッサリ削り、二人の活躍をあくまでも試合中心に据えたのは英断でしょう。

 

リョータの過去は結構しんみりとした内容で、若干抑揚に欠けるように思えましたが、その分山王戦の疾走感につながっているので、そこは良し悪しかなと。盛り上がるシーンで一部劇伴がボーカル曲になるところも賛否両論点かもしれません。

しかしなによりも山王戦を正面から映像化したインパクトがすごくて、終盤にはわりとすすり泣く声が聞こえてきていました。朝7時の回だけあって、原作への思い入れが大きいファンが来ていたんだなと。個人的にはリョータのバイクシーンが、運転歴があるとわりと本気で恐怖を覚えるやつで、地味によかったです。

 

大変楽しんだのでひさびさに原作を読み返したくなったのですが、『SLAM DUNK』は井上先生の意向で電子書籍化されていないのですよね……。大友先生もですが、我が家にはもう紙の本を置くスペースが全然ないので、ぜひ電子化解禁を前向きにご検討いただきたいところ。本作に対する不満はそれぐらいです。