『マルドゥック・スクランブル 圧縮』 感想

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 というわけでマルドゥック・スクランブルの劇場版を観て参りました。原作は二巻の途中まで既読。今回の劇場版第一部はちょうど原作の1巻部分に該当してます。でなんですが・・・えー、今回観る直前になってから気がつきました。これ、上映時間が65分しかないんですね。
 はじめに言っておきますが悪くはなかったんですよ。むしろ非常に良かったと応援したいくらいです。ただいかんせん尺が足りなすぎる(笑) これだけ限られた尺では原作小説の内容の網羅など不可能なわけですよ。しかしそんな超限られた尺のなかで原作要素の取捨選択が非常に高度なレベルで行われていたように感じたわけです。あの尺で物語の骨格を崩さずに映像化できたスタッフは素直に凄いと思う。この辺は脚本として参加している原作者の冲方さんのおかげなんでしょうかね。
 正直原作未読な場合はストーリーや登場キャラの心情なんかを追うのが大変だと思いますが、絵的なクオリティがなかなか高いおかげでそんな人にも最低限のエンタメは用意されてます。実際原作未読な友人と観に行ったんですが、友人もまあまあ気に入ってたようですし。時間に余裕がある人は原作を読んでから劇場版をご覧になることをおすすめしますが、1時間のザックリした娯楽として楽しもうという割り切った態度であれば原作未読でもアリ・・・かもしれない映画だったと思います(自信ないw)
 そうそう、絵的なクオリティと言いましたが、中でも車のCGでの描写がとても面白かったですね。いわゆるアニメに出てくるCGの車っていうのはいかにも「CGです」って感じのものが多い気がするんですが(『パンスト』のシースルー号とかの例外はありますw)今作はそんな中でかなりの創意工夫がされてるように感じました。今まで見たことがないようなゴージャスな感じの車で、なんと言ったらいいのか・・・なんか車体に周囲の風景がキラキラ映りこんでる感じなんですが。うまく説明できないな。イノセンスの冒頭でバトーが乗ってる車が一番近いのかもしれません。上映が終ってから制作会社の「GoHands」というのが聞かない名前だったので調べてみたんですが、最近のマクロスなんかを手がけてるサテライトが前身の新しいスタジオみたいですね。他にもクレジットを見てたらCG協力(?)だかの欄にサンジゲンの名前もありました。サンジゲンは『グレン』や『パンスト』で僕もすっかりファンなので名前見かけるだけでなんだか嬉しくなっちゃいますね。とにかくCGも結構力が入っていて良い感じでしたね。
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ここからちょっとネタバレ感想。「映画版」観てない人は読むと今後映画版観たときに驚き半減するかもしれないんで気をつけて下さい。
 
 
 
 
 
ここからネタバレ感想
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 若本さんなにしてはるんですかwwwwwwwwwwwwず〜っとシリアスな路線だったのに若本さんが100%「ワカモト」のまま出てきて「ぶぇぇぇええりゅゅううえぇえええあああああああッッ!!!!」とか奇声上げだした時は声出して笑いそうになりましたよww ただ最初は「世界観ぶち壊すなよw」と半ば呆れ気味だったんですが、その後の展開を見て一種の感動を覚えました。あそこで若本さんの最早ギャグの粋に達している「ワカモト」で演じてもらったのにはれっきとした演出意図があったんですよ!(な、なんだってー!)←セルフつっこみ
 この作品、若本さんなんかが声を演じてる敵の5人集(だったっけ?正確に何人だったか忘れたw)が出てくるあたりで明らかに空気やテンポが一変します。これは尺の関係上どうしても仕方が無いところで、直前の裁判のシーンまである程度余裕をもって描かれてきてた主人公の心情描写だったり周辺状況の説明だったりといったものが、敵とのバトルパートではもうどうやったって時間的に余裕がなくなっちゃうんですよ。しかしどうしても作品の山場となるバトルパートはねじ込まなければならない。そこで本作で選ばれた手法が、「勢いで敵を全員ぶっ飛ばしてしまう」という身もふたもないものでした。そもそも原作からしてここらへんのシーンは主人公の心情描写が意図的に最小限に抑えられてて、テンポ良く敵がぶっ飛ばされる場面ではあるんですが、それでも原作では
1:敵キャラを立てる→2:敵キャラ視点で主人公の超常的力が描写される→3:敵キャラを蹂躙する事に悦びを覚え、力に溺れる主人公を描写
と順番に描かれていくんですが、時間的な制約でこの劇場版では「1」の部分が相当おざなりにならざるを得なかったんだと思います。というか「2」の部分もそうとうやっつけで、「敵キャラ視点で主人公の超常的力」が描写されているというよりは、俯瞰視点で敵キャラが主人公に一方的に蹂躙されてく様が映し出されるだけになってます。時間の関係で後半部分の要素がとにかく効率化されてるわけです。そんな無茶を押し通すために異常なまでにアップテンポな展開(&それに合わせた音楽)が使われてたんですね。(この「時間が無いから勢いに任せて敵をまとめてぶっ飛ばす!」って手法は『グレン劇場版 紅蓮篇』を思い出しますね)
 しかしいくら時間の都合上アップテンポな展開が必要だったとしても、それまでの話の展開スピードはわりと緩やかだったわけで、映画の途中でストーリーの展開スピードを倍速にした場合、どうやったって観客を置いてけぼり状態に陥らせる危険性があるわけです。そこで今作で使われたマジックこそが若本さんによる100%「ワカモト」な演技だったのではないかと僕は思うわけです。突然、明らかにそれまでの世界観とは「異質」である若本さんの声を観客にぶつけることによって、それまで通常ペースのストーリー視聴に慣れていた観客に突然のギア・チェンジを強いる、いわばショック療法だったのではないかと思うわけです。ここまで見事に若本さんの“あの演技”を演出的に活かしたアニメを今まで観たことが無かったので、今回観ていてちょっとした衝撃でしたね。