『トイストーリー3』感想 ― 時が流れても変わらないもの。

昨日『トイストーリー3』を見てまいりました。途中の赤い点線まではネタバレなしでグダグダと、点線以降の後半はネタバレありでぐだぐだと感想。
もともと期待値は非常に高かったものですから、川崎まで出向いてIMAXで見ようかとも思いましたが、寝不足で疲れていたのと気温が高くてダルかったこともあり、近場の「新宿バルト9」という劇場で妥協しました。バルト9はクレジットカード無しでネット予約できるので、学生には大助かりな劇場。上映の1時間前にチケットを購入せねばならないのが唯一の弱点ですが、設備も新しくて綺麗ですし、近くに紀伊国屋書店ジュンク堂といった大きな本屋さん、ヨドバシカメラビックカメラなどの家電量販店もあるので1時間潰すくらいはどうということは無いです。ただまあ、川崎などのIMAX上映の劇場に比べれば3D上映の作品では3Dメガネにストレスを感じることもありますかね。バルト9の場合使われている3Dメガネは「XpanD」という方式のもので、そこまで悪いとも言いませんが、かけ心地や発色などでは「IMAX 3D」には遠く及ばない感じです。(グーグル画像検索かければどちらのメガネの写真もすぐ出てきますね→XpanD http://image.news.livedoor.com/newsimage/9/9/996fa_139_action_Image1p0000004835idbodyimage1.jpg , IMAX 3D http://www.kietz.net/files/IMAX_3D_Grass.JPG
見た目で分かるように、「IMAX 3D」が軽いグラサン程度なのに比べて、大げさに言えば「XpanD」は“分厚いゴーグル”という感じですから、劇場の中央付近の良い席(まあ良い席といっても人それぞれでしょうが、僕は中央のやや前方の席が好き)に座らないと視野は狭いわメガネは重いわと、なかなか映画の内容に集中できなくなる事もあるかもしれません。このような3Dメガネの比較というのはググれば多く出てきますが、書かれている内容はだいたい上記と同じような感じだと思います。で、始めに言っておきますが『トイストーリー3』は大傑作です。なのでこれから見に行こうという方でこの文章を読んでおられる方にはぜひ上記にような3Dメガネ比較を参考にしてもらって、できるだけ環境の良いところで見ていただきたい・・・・・とは今回言い切れないので、以下経験者のアドバイス
あたまカラッポでOKなハリウッドの3D映画であればストレスレスな「IMAX 3D」に越したものは無いでしょう。ですがこの『トイ3』は映画の途中に号泣必至のシーンがいくつかあり、普段シャイでクールで通っているような人はボロ泣き姿を隣の人たちに晒したくなければ、そのために多大な集中力を割かねばならない可能性が高くなります。友達や家族と見にいく場合は尚更です。というわけで個人的に今回ばかりは「XpanD」の横の視野が狭められる特性に大いに助けてもらいましたw。鼻水をすする音と嗚咽を押さえるのには苦労しましたが、映画館で映画本編に集中したまま涙ちょちょぎれることができた初めての体験ができました。
ネタバレ無しの感想として言えるのは、本作がピクサー史上に残る大傑作であるということと、前作の『1』と『2』を見ていなくとも100%楽しむことができる作品であり、前二作を見ていれば120%楽しむことができることくらいですか。とにかく、「この夏1本だけ映画を見ようかな」という人に一作進めるとしたら『トイ3』しか思い浮かばないというくらい、今夏見てきた作品のなかでぶっちぎりの満足度でした。(あ、「ついでにもう一本」という方は是非『インセプション』をどうぞ^^)本作は『トイストーリー』本編シリーズの「完結編」として作られていますし、本作の登場キャラクター達に少しでも思い入れのある方であれば見終えた後になんともいえない放心感覚に襲われることと思います。上記では「XpanD」の利点を強調するために「泣ける」面ばかり強調してしまいましたが、全体で見れば笑いあり涙ありの優れたエンタメ作品ですので、そんなに構えずに見にいって全く問題無いと思います。とにかくオススメ。
というわけで以下ネタバレ感想。本編見ずに読むと人生損しますので、まだ『トイ3』を見てない方は以下の駄文のことなど捨て置いて今すぐ映画館に走って下さい。wikipediaレベルの情報収集も勿体無いです。とにかくなるべく具体的な事前情報無く見るのがおすすめです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけで以下ネタバレ感想。
2009年の1月に同じくピクサー作品である『ウォーリー』を映画館で見ましたが、あの時以上の放心状態です。あの時は年の初めにその年最高の映画を見てしまったのではないかという、ある種の虚無感から来る放心でしたが、今作『トイ3』の場合は一年単位で区切った場合のエポックというよりは、昨年大学生となった身としては、まるで人生の転換期を作品に諭されている気分で、とても冷静に見れるものではありませんでした。それこそ『トイストーリー』シリーズというのは5歳か6歳のときに一作目に出会い、愉快なキャラクター達や初めて見るCGアニメに心奪われ、台詞を殆ど暗記してしまうまで繰り返し見たものです。そして本作『トイ3』では主人公のアンディは大学生。できすぎと言えばできすぎですし、自意識過剰と言えば自意識過剰なのかもしれませんが、どうしても主人公と自分とを重ね合わせて見てしまいます。ピクサーは本当に恐ろしい会社です。ピクサースタッフの人たちは誰もいい歳してアニメが大好きなオタク野郎どもです。しかしこの物語普遍性はなんなんでしょう。日本を代表するアニメスタジオでオタク制作集団といえば「ガイナックス」ですが、ガイナの『トップをねらえ』の印象的なシーンに主人公がロボット操縦に明け暮れているうちに周りの同級生達がいつのまにか(ウラシマ効果で)大人になっており、子どもまでできていたりする、というオタク心に突き刺さる秀逸なシーンがありますが、同じオタク制作集団でありながら真っ向から“子のおもちゃ離れ、おもちゃの子ども離れ”を描けてしまうピクサーには底知れないものを感じてしまった。多分ピクサーのオタク性と大衆性を両立させているのはこういう所なのでしょう・・・。ピクサー、おそろしい子!
アンディーの成長が作品最後に描かれていましたが、何よりウッディの成長も目につきました。あれだけアンディに対する独占欲が強かったウッディが、最後に自分の身をアンディに委ねるシーンなんかは涙で画面がぼけぼけでした。
もうひとつのクライマックスに焼却炉のシーンがありましたが、あの「かみさまぁ〜」には痺れましたね。まさかトイストーリーであんなものを魅せられるとは。あのシーンは「神」という絶対の上位者に馴染み深いキリスト教圏の作品ならではな気もしますが、それまでコミカルに「かみさま」を信じてた緑のエイリアン達のおかげで宗教色と同じだけ現実性を感じてしまいました。その辺のバランスも奇跡的。
他にも保育園内の格差描写が秀逸でしたね。イモムシ組とチョウチョ組での格差。チョウチョ組の快適生活はイモムシ組の地獄に支えられてるわけですが、言うまでもなく現実を反映した構造ですね。作品内の終盤では平和になった「サニーサイド保育園」が描かれますが、そこで提示されている格差解消の解決案は“皆で協力しよう”という当たり障りのないもの。確かに本作で妥当な打開案はこれしかない気もしますが、それより何より多くの子ども達に見られる『トイストーリー』シリーズでこういった問題が示唆されること自体に意義があるのでしょう。格差があるのならどうすればいいのか、その問いを見た人それぞれに抱かせる事が大事なのであって、作品内で提示される解決案などどうでもいいのです。ここでもピクサー作品の質の高さに腰抜かしてました。
あとトトロ!あれは事前情報をなるべく遮断してたので本当に良かったと思いましたよ〜!出た瞬間すげー幸せな気分になってしまった(笑)。トトロがジブリ以外で、しかもCGで、つーか3Dで動いているというセンスオブワンダー。劇場内の空気が変わったのが印象的でした。というかバルト9って劇場は若いお客さんが新宿という立地上多い気がするのですが、いつも見てる人たち凄いクールなんですよね。『ダークナイト』見た時に外国の方々の集団がいて、劇中のジョーカーの一挙手一投足に「Hahahaha!」とアメリカ〜ンな笑い声を上げていたのと、『ヱヴァ破』を初日で見た際に拍手喝采が起こったくらいじゃないですかね、僕が見た中での例外は。それなのに『トイ3』ではバズが踊れば笑い声が巻き起こり、感動シーンではすすり泣く声があちこちから漏れてきました。終ったあとも笑顔の観客の多いこと!子ども連れは本当に1〜2組見かけたくらいで(実際はもっといたかもしれませんが)殆どが若い男女だったのにです。この前バルト9でみた『インセプション』が「笑顔の人:2」、「満足そうな人:3」、「鳩が豆鉄砲を食らったような人3」、「眠そうな人:2」だったのと比べると差が凄いなぁとw。(以上は当然僕の主観です。批評で周りの観客の反応を自分の意見強調に使うのってどうかと思うけど、これは“感想”なのでまあいいよね)
そしてエンドクレジットも作品愛、作り手の心意気にあふれる作りになっていて感激。最後のおまけアニメももちろんですが、エンドロールで「スタッフの役職」、「スタッフの名前」といったものが流れる際に、役職よりもスタッフ名の文字の方が大きく(そして浮き出て!)見えるようになっていて良かったですね。あとスペシャルサンクスに「Hayao Miyazaki」の文字が!後ろのほうの人も気がついたのか、興奮気味に宮崎さんの名前を口にしているのが聞こえてきましたw。
そうそう忘れるところでした。本編開始前にピクサー作品ではおなじみの短編作品上映がありました。タイトルは『デイ&ナイト』。もうこの短編からしてピクサーの半端なさが伺えます。驚愕の完成度。白人と黒人の違いなんて些細なもの、だから仲良くやろう!というようなありきたりなものは沢山見てきた気がしますが、そんな良くあるようなテーマでもこの斜め上な切り取り様ですよ。見てる最中にテーマが浮かび上がってくるんですが、魅せ方が凄い自然なんですよね。最後にラジオでメッセージが流れるところは説明しすぎな気もしましたが、言葉による情報がメタ的に流されるおかげで最低限の客観性は保ったまま、メッセージをストレートに幅広い客層に届けられていたように感じました。
う〜ん、本当、とにかく満足です。満足すぎて今日一日何も手につきませんでしたw。正直今年のマイベスト映画は決まったようなもんです。