『シン・エヴァ』ラストシーンの位置関係をGoogle Earthで確認すると余韻が増すという話

この記事では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストシーンについてネタバレしています。


公開初日の感想でも書いた通り、『シン・エヴァ』からは旧劇までの「現実に帰れ」とは明確に異なる、「現実を生きよう」とでもいうべき前向きなメッセージが感じられるものでした。

庵野監督は『監督不行届』(安野モヨコ作/2005年刊行)収録のインタビューで次のように語っています。

 『エヴァ』以降の一時期、脱オタクを意識したことがあります。アニメマンガファンや業界のあまりの閉塞感に嫌気が差してた時です。当時はものすごい自己嫌悪にも包まれましたね。自暴自棄でした。

 結婚してもそんな自分はもう変わらないだろうと思っていました。けど、最近は少し変化してると感じます。脱オタクとしてそのコアな部分が薄れていくのではなく、非オタク的な要素が+されていった感じです。オタクであってオタクでない。今までの自分にはなかった新たな感覚ですね。いや、面白い世界です。

これはもう、全て嫁さんのおかげですね。

ありがたいです。  

監督不行届 (FEEL COMICS)

監督不行届 (FEEL COMICS)

 

 

このときの気分を発展・昇華させたのが、まさにあの『シン・エヴァ』のラストだったように感じます。あそこで描かれる「現実」は、アニメ(オタク的なもの)と限りなく地続きで、旧劇での突き放すような手付きとは明らかに異なるものでした。個人的に最後に宇部新川駅周辺が映る一連で特に象徴的だったのが、実景の中で人物が絵として描かれることと、庵野監督お気に入りの電車「クモハ42」がホームを走り去っていくこと。

このクモハ42は既に現役を引退済みで、初見では気付きませんでしたが、どうやらCGで再現されているようです。映画『式日』でも印象的に登場し、今年1月に発売された『エヴァンゲリオンと鉄道』でも特集されていた車両です。

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庵野監督による映画『式日』より
旅と鉄道 2021年増刊1月号 エヴァンゲリオンと鉄道

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  • 発売日: 2021/01/16
  • メディア: 雑誌
 

 

そして先日、駅周辺の位置関係を調べる過程で、興味深いことに気付きました。

そもそも初めは電車がどちらのホームに来たのかも把握できていなかったのですが、本編を注意深く見ていると、レイ、カヲル、アスカがいた側の1番ホームに来ていることが分かります。シンジとマリがいたのは3・4番ホームで、こちらは「新山口方面(上り)」と「居能・宇部方面(下り)」両方の電車が通ります。一方で他の3人がいた反対側の1番ホームは「下り」電車しか通りません。

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Google Earthで見た宇部新川駅周辺

マリが「だーれだ?」するのは、鳥が羽ばたくカットの直後*1。鳥のカットは、今まで“綾波の人影”とセットで登場するのがお決まりでしたが、今回は「綾波の影≒ホームの向こう側にいるエヴァの登場人物たちの行方」を遮る形で、マリがシンジの両目を手で塞ぐわけです。

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画像は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の冒頭から。『シン・エヴァ』では第3村のネルフ施設跡で座り込むシンジの元に綾波(そっくりさん)が現れる際にも同様の演出がある

ここで描かれなかった“3人の行方”というのが、おそらくは最後に映る、駅から去っていくクモハ42なのでしょう。

最後の空撮シーンで、カメラは車両の発車とタイミングを同じくして横にPANします。はっきりと下り方面に向けて走り去るクモハ42――この位置関係を頭に入れた上でラストシーンを見ると、車両を見送りつつ宇部市を一望するラストシーンでより深い余韻が感じられるはずです。

 その上でオープニングを見返すとまた違った感慨もあるかもしれません

 

ちなみに、先日の舞台挨拶で庵野監督はラストの実写シーンについて「ものすごいお金をかけて、好きなもの一個入れてますんで、それは気づいていただけると幸いです」と語っていました。おそらくCGで再現された何かがあるのだと思われますが、画面内で比較的視認しやすいものでいえば、上述のクモハ42のほかに、バスなどもCGっぽい……ですが、車両数台にそこまで大きな予算がかかるとは考えづらいです。

そこでSNSなどを見ていて比較的有力視されているのが、映画『式日』にも登場した建物「太陽家具本店」。この建物は既に解体済みのため、全体をCGで再現しているようです。「ものすごいお金をかけた」のが内装まで再現したからなのか、権利関係で話を通すためだったのかまでは、今後の種明かしを待たないとちょっと分からないですね。

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映画『式日』より。後方に見える建物が太陽家具本店

個人的には何度見ても電車や「ABホテル」に気を取られてしまい「太陽家具」を見つけられずにいたのですが、Google Earthで位置関係を予習しておくことで、10回目の鑑賞でようやく視認できました。

そして完全に余談ですが、調べていたら2019年に太陽家具による「エヴァ」のパロCMが放送されていたことを知りました。いかにも味のあるローカルCMといった雰囲気ですが。このCMが『シン・エヴァ』での旧太陽家具本店登場確定前に作られたかどうかが気になりますね。*2

www.youtube.com

*1:なお、「だーれだ?」時にマリがどこから登場したのかは不明。初見では電車から降りてきたのかな? とも思いましたが、電車は反対側のホームに来ていて、ドアが開いた直後に「だーれだ?」しているので、電車から降りてきたとは考えづらいです(庵野監督の観念的空間なので、電車から降りた瞬間シンジの後ろに出現したと考えられないこともないですが)

*2:なお現在宇部で開催されているパネル展で、庵野監督の宇部駅周辺での事前ロケハンが2019年9月19日だったのが写真のキャプションで明かされています。