『ガッチャマンクラウズ』 オフ会シーンから見るはじめと清音の対比

はじめちゃんについて一点、言及してる人が見当たらなかったのでメモがてらさくっと書いておきます。2話のオフ会でさり気なく描かれた清音との対比について。

まず、多くの人が既に指摘している通り、はじめは価値観の多様性を是とする子です。そうした面は3話まで、主に清音との対比により強調されてきました。

アップデートされるヒーローと世界「ガッチャマンクラウズ」 - 藤四郎のひつまぶし
 
おばあさんに席を譲らない若者を見つけて不満を言う清音に対して、はじめは疲れてるんじゃないの? 病気だったりするかもよ? と別の視点を提供する。
(中略)
多分はじめは常識、きまり、あるいは思い込みといったものだけで物事を判断してない。
なんで物事がそうなるのか、なぜその人がそうするのか一つ一つを深く理解して、あるいは理解しようとして行動してる。

http://dokaisan.hatenablog.com/entry/2013/07/31/233709
 
ガッチャマンクラウズ』は、同じヒーロー(ガッチャマン)でも、「まっすぐ」四角四角な正義観をもつ清音(すがね)と、フレキシブルなはじめとで出来事の見え方が違ってくる。

 
本作を見返しているとこうした両者の対比があまりに細かく仕組まれているので、もしやこの場面も?と、色々邪推したくなってきます。例えば1話で開始十秒と絶たずに登場する以下のカットでは、清音の部屋の奥に「一意専心」と書かれたの掛け軸があり、彼の性格を暗示しています。

 
一方のはじめは2話で引っ越してきて早々、鼻歌交じりに部屋の大改築をはじめたりします。

この二つのカットを見比べるだけでなんとなく、清音の部屋は引っ越してきて以来ずっとあのままなんだろうなとか、はじめの部屋は連休があるたびに新しくデコられていくのだろうなとか、もしかしてこの二つのシーンは対比になっていたのか?とか色々妄想が膨らみます。
そんなわけで、以下のオフ会のシーンでも引っ掛かりを感じました。


清音 僕、こいつ、いえ、一ノ瀬と同じ学校の……。
市長 え、はじめちゃんって一ノ瀬っていうの?
GALAX廃人A そうなんだ!
GALAX廃人B 一ノ瀬っぽくない(笑)。

この後

清音 お前、署長とか市長とか、そうならそうと先に言っとけ!
はじめ でも皆普通のおっさんっすよ?ちょ〜無邪気だけど!

という何気ない会話が続くのでスルーしそうになりますが、しかしこれ、普通ならブチギレ必死の場面ではないでしょうか。というか清音が逆の立場に立たされていたら高確率でブチ切れていたでしょう。(理由は後述)
つまり清音は、SNS上では公開されていなかったはじめのフルネームを、他の利用者の前で大々的にばらしてしまっているのです。はじめはGALAXにはフルネームではなく、「はじめ」というハンドルネームで登録していたと思われます。あのオフ会に参加していたのは、はじめにとって定期的に現実で顔を合わせる程度には親しい人たちでした。にも関わらず彼らがはじめの苗字を知らなかったということは、はじめが意図的に苗字までは公開していなかったためと考えるのが自然です。はじめがフルネームを公開していなかったことに深い理由は無かったかもしれません。しかしもしかすると、苗字までは公開したくないという明確な意思があったのかも。最低限そこまで気を回すデリカシーが清音にあっても良さそうなものです。ではなぜ、はじめはデリカシー皆無な清音に怒らなかったのでしょうか。
そもそもはじめは、清音にGALAXを布教するため、彼をオフ会に招いたのでした。はじめの一番の目的は、GALAXについて全く知らない清音にGALAXの良さを伝えること。


清音がGALAXについて全くの無知であることは事前に描かれていました。

つまり、あそこではじめが怒っていたら、一番の目的であるGALAXの布教は失敗に終わってしまう。さらに言えば、清音がGALAXについて無知なのは事前に分かっていたことなので、呼び名については前もって自分の方から詳細に説明しておくべきで、落ち度は清音にではなく自分の方にあったとすら彼女は考えたかもしれません。
 
僕は、彼女は内心むかっとしつつも、上記の思考により表面上ニコニコしていたのだと思います。まさしく、多様な価値観を許容し、うまい具合に他者と共存しようとするはじめの性格を表した態度だったというわけです。そして、ここでのはじめの行動と好対照なのが、以下のシーンだったのではないかと思います。


はじめ もしもーし。うん、へーきへーき、戦ったよー。え?怪我はしてない。大丈夫。てか家がさー

このシーンではじめは、実の母親に対し自分がガッチャマンであることや、他のガッチャマン隊員も住んでいる新居の様子などを伝えているようです。1話でははじめが級友にガッチャマンの秘密をばらしそうになり、清音から大目玉を食らっていました。おそらく母親との会話の直後も同様に叱られたでしょう。
ここで注意したいのが、フルネームをばらしてしまった清音同様、ガッチャマンの正体をばらしそうになったはじめにも悪気がなかったという点です。清音がGALAXの常識を知らずにはじめのフルネームをばらしてしまったのと同じように、はじめもガッチャマンとしての常識を知らなかったために、正体をばらしそうになったのです。
 
消防署の署長や市長などが実名でGALAXに参加しているのを見ると、GALAXは現実にあるSNSと同じように、実名で参加している人も多いようです。しかし政治家や一部の有名人が実名で登録しているからといって、他の全ての人が実名で利用していると考える人は稀でしょう。同様に、ガッチャマンとしてのキャリアなどがなくとも、「正義の見方といえば正体は隠すもの」というのは常識として分かりそうなものです。しかし大半の人が分かりそうな上記の例でも、案外中には分からない人もいるかもしれない。
そんなもしもの可能性に瞬時に気づき、気を回すことができるのがはじめというキャラクターで、そうじゃないのが清音なのです。オフ会のシーンはそんな対比の一部だったのではと思います。