『コードギアス 亡国のアキト』公開初日に観てきたのでネタバレ気味な感想。
テレビ版が大好きだった身としてはやはりそれなりに期待はしていたんですが、今のところそこまで面白いかと言うと…。ただし好材料が無いわけではなくて、ロボットアクションは良かったですよ。予告でもグリグリ動いて期待感を煽ってくれてましたが、そこはきっちり素晴らしかったです。
CG制作はオレンジ(公式ホームページ→http://www.orange-cg.com)。ギアスで「オレンジ」というと違う何かを連想してしまいますが、そっちじゃないですw
オレンジといえば、個人的に馴染みがあるところだと「エヴァ新劇場版」。特に『破』アバンの仮設5号機のシーンは印象的でした。公式ホームページを見ると他にも『攻殻SAC』のタチコマをはじめ、CGのデキが良かった印象のある作品に多く関わっていて、優秀なスタジオらしいことが伺えます。今回の『亡国のアキト』は監督が赤根和樹ですが、過去の監督作『ノエイン』や『鉄腕バーディDECODE』で既にオレンジとは一緒に仕事してたんですね(備考:制作実績 |有限会社 オレンジ 公式サイト)。
で、そろそろイマイチだった所に触れて行きたいのですが…。この企画、そもそも発表された当初から「誰得」と思っていた部分がありまして…。その理由はいたってシンプルで、
1、ルルーシュが出ない
2、監督が谷口悟朗じゃない
という2点。
ギアスには確かに魅力的なキャラが多くいましたが、ルルーシュという夜神月に青臭さを二十五%ほど混ぜた超魅力的キャラが作品人気を支えていたことに議論の余地は無いでしょう(断言w)。『R2』がああいった終わり方だった以上、ふんどし締めて作られた正統続編でない限り、「実は生きてました」展開は許されないでしょうから、そういった意味では『亡国のアキト』の時系列が1期と『R2』の間に設定されているのは必然とも言えます。しかし登場人物を総取替した『ガンダム08MS小隊』的な作品が求められるほど、ギアスって世界観そのものに魅力があったっけ…というのが率直な第一印象でした。
もう一つギアスの面白さを象徴していたのが、物語の圧倒的スピード感。瞬間最大風速がとんでもないことになるアニメはままありますが、ギアスほどそうした疾走感を徹頭徹尾維持し続けた(少なくとも1期では)作品は他に知りません。こうした疾走感のことを「未来私考」のGIGIさんなどは「情報圧縮」と呼んで説明を試みていました。
強く感情を揺さぶる表現をすることと、画面内の情報量を増やすことはトレードオフの関係になりがちです。それは感情を強く揺さぶる表現をするためには読み手の思考や感情がシンプルであるほうが好ましいのに対し、情報量の多い画面というのは読み手の思考を複雑にして感情線が動きにくくなってしまうんですね。この相反する性質を克服するにはどうすればよいのか。それに挑戦し、そして成功しているのが、コードギアスという作品なんです。
快感原則に寄り添うことと物語性の両立 - 未来私考
- 反復・対比の多用
- 暗喩的なキャラクターの造型やアイテム
- 多層的な人間関係
- 複数の視点の混在
こういった要素がコードギアスの演出には非常にふんだんに用いられているのは間違いのないところです。それを意識しながら見るとコードギアスの物語がとても豊潤なものに見えてくる。
なぜコードギアスなのか。情報圧縮論のモデルケースとしてのコードギアス - 未来私考
自分としてはこの情報圧縮はギアスの代名詞ともいえる根幹的な部分だと思っていました。テレビシリーズでのこうした方針は設定・脚本段階から織り込まれていたと思いますが、最終的にそれを形にできていたのには、群像劇が抜群に上手い谷口監督の功績が大きかったはずです。個人的な話になりますが、『ギアス』後に『リヴァイアス』とか観て鼻血出ました。
ところが『亡国のアキト』の監督は赤根和樹。脚本もテレビシリーズの大河内一楼から浅川美也に。そして当然ルルーシュは出てこない。となると、やはりテレビ版とは違う別モノなんだろうなと、当時の熱狂が忘れられない身としてはどうしても残念に思ってしまう部分がありました。
で、出来上がったものを観てみると、そのものズバリ別モノでした。というか、かなり意識して別なモノにしようとしているようです。というのも、話のテンポがギアスとは思えないほどゆったりしてるんです。ギアスの最もキャッチーだった部分をあえて逆張りで行った事はある意味挑戦的だとは思いますが、しかしそれが大きな面白さに繋がっているかというと、かなり疑問です。というか、ぶっちゃけ途中何箇所かで眠くなりました。
それに、じっくり系な展開になっているにも関わらず、1話時点では主人公アキトのバックボーンや動機がなんだか良くわからない事は明確なマイナス点に感じました。2話の公開が来年春と随分先なのに、キャラクターの魅力が全然伝わってこない(その上お話が「プロローグ」的なものという…)。主人公が中二病な性格であることは十分伝わってきますが、それで何がやりたいひとなのか、全然分からない。「何のために生きているのか?→死に場所を探してる」的なことを言うくせに、ヒロインに「この世界を壊してあげましょうか?(ニヤリ」とか言ってみたりもする。主人公がそうやって含みのある事を言い出すものだから、途中、本当は反乱グループの仲間なのではないかと疑ってしまったほどです。
反乱グループといえば、政府の要人に刃物を突き付けて人質に取った挙句に殴り飛ばし、爆弾を体中に巻きつけて逃亡用のナイトメアフレームを要求してきたりします。それに対し、「あなた達を我々の正規軍として迎え入れましょう^^」と独断で決めてしまうヒロインには腰を抜かしました。「テロリストとは交渉しない!」のが世界的トレンドなのに、あえてその逆を行くアメリカ様もビックリな展開。…いや、「異国で“イレブン”と差別されながら生きる日本人」って要素を神の見えざる手でちょちょいとストーリーに絡ませたかったのは分かるんですが、あの展開はどうなの(笑)。
他のツッコミどころとしては、冒頭でヒロインが舞台の指揮権を上官から奪う場面とか。いかにも有能そうにカミカゼアタックをやめさせたように描写されてましたが、基本的にはそれだけで、その後の戦闘は全部主人公のイヤボーンで解決されてしまうという…。戦闘描写自体は『R2』の空飛ぶスーパーロボットだらけなものよりは地に足がついてて良かったと思いますけど。
もうひとつ、パーティ開場で金持ちのオバサンがヒロインを一瞥して放った、「パーティに軍服を着てくるなんてどういう神経してるのかしらo(`ω´*)o」的一言は名言。
ご覧の通り軍人だ!ナイスBLOOD-Cギャグ!
そんなわけで観ていてそんなに面白いと思わなかった本作ですが、映像面では今後も高水準なものを作ってくれそうですし、次回以降もっと話が動いてくればそれなりに楽しめてくる気もしてます。次回予告でスザクが映った場面などでは、場内のあちこちからクスクスと笑い声が上がっていましたね。
あと、どうでも良いですが、今回そこはかとなく竹P臭がしてるのに、実際は竹Pが関わってないっぽいのが面白かったですね。竹P臭ってテレビシリーズではむしろ途中から薄れていったように思うんですが、ここにきてまさかの復活というw