『ピングドラム』前の幾原監督の仕事

 『ピングドラム』の売り文句として「幾原邦彦12年ぶりの監督作!」と謳われていたりしますが、作品が決して幾原監督の「リハビリ作」などではなく、ムックインタビューでの監督の言葉通り、「剛速球」になっていることの喜びに最近しみじみしてます。
 幾原さんて『ウテナ』以降は『ピングドラム』に至るまで監督したアニメは一切なくて、一見アニメ界からぷっつり切れてしまってるみたいで、最近まで「あれだけの花火を打ち上げた人なのに現在一体どこで何をやってるんだ?」系なヒトに見られてた気がします(何週か前の「こそピン」でも、ゲストの越阪部ワタルさんが幾原さんについて「何年も地下に潜ってた」と言ってました)。
 しかし幾原さんの参加作品の一覧を見ると、確かに99年の『劇場版ウテナ』でアニメに関する経歴は一度プッツリ途切れてはいるんですが、05年に参加した『トップ2』を期に、09年までの間、ほぼ一年に一作のペースでコンスタントにアニメ制作に関わっている事がわかります。もし幾原さんに「リハビリ期間」というのがあったとすれば、この頃がそうだったのかなと。(といっても『青い花』の幾原コンテ回とかめちゃくちゃ面白いですけどね。リハビリってレベルじゃねーぞ!)

幾原さんのアニメに関わる仕事(wikipediaを元に適当に切り貼り)
・1999年 『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』 [原案 監督 絵コンテ]
・2004-2006年 『トップをねらえ2!』 [2話絵コンテ](2話の発売は2005年2月なので実質関わっていたのは2004年?)
・2007年 『のだめカンタービレ』 [OP絵コンテ・演出]
・2008-2009年 『ソウルイーター』 [29話絵コンテ]
・2009年 『青い花』 [OP絵コンテ・演出 5.6.11話絵コンテ(11話はカサヰケンイチと共同)(本編絵コンテは渦薪かい名義)]
・2009年 『のだめカンタービレ 巴里編(OAD)』 [絵コンテ(渦薪かい名義)]

幾原邦彦 - Wikipedia


 
 ついでに言うと、wikipediaなどで幾原さんの経歴を見ていて面白いと感じるのが、文化庁メディア芸術祭で2007〜2009年の間、三回にわたり審査委員を務めていたということ。これについて実は幾原さんは過去にブログで言及していて、審査作業が1ヶ月に200本以上の作品を見なければならないような超ハードスケジュールである事が明かしています。審査員として作品を観る以上、好き嫌いに関係なく200本以上の作品を観ていた事になるわけです。

探してみてぱっと見つかった幾原さんのメディア芸術祭に関してのブログ記事。
斜め文字となっている部分はリンク先の内容を適当に抜粋したもの。太字は日記のタイトル。

http://www2.jrt.co.jp/cgi-bin3/ikuniweb/tomozo.cgi?no=305
寝不足! 2007年10月21日(日)
→「この二週間で、今年放映・公開された、テレビ・劇場のアニメ作品のタイトルを、120本ばかり観ています

http://www2.jrt.co.jp/cgi-bin3/ikuniweb/tomozo.cgi?no=308
ちょっと激論 2007年11月09日(金)
→「まったりと…と思っていたのですが、突然、自分の押す「***が選ばれない? そんな」と緊張する展開になり、突起として議論に熱が。いや、他人事だと思っていたのに、熱くなるとは。

http://www2.jrt.co.jp/cgi-bin3/ikuniweb/tomozo.cgi?no=322
文化庁メディア芸術祭 2007年12月05日(水)
→「 審査過程では喧々諤々、色々あったのですが、結果、受賞作品はどれも素晴らしく、喜ばしいことです。 にしても、あの日程で200タイトル以上の作品を観るのは本当に大変でした。(中略)なんとか乗り切れたのは、やっぱり「一生懸命作った人たちがいる!」という、その事実につきます

http://www2.jrt.co.jp/cgi-bin3/ikuniweb/tomozo.cgi?no=501
オブジェ 2009年10月03日(土)
→「毎日何本ものアニメを観ています。あー。

http://www2.jrt.co.jp/cgi-bin3/ikuniweb/tomozo.cgi?no=506
最終審査 2009年11月08日(日)
→審査についての他に、幾原さんが作り手側の人間として、作品鑑賞の際どういったスタンスになっているのか等。面白い話なので原文を読んでもらうことをお勧めします。


 で、『ピングドラム』の制作が始まるのが2009年の末頃だったはずなのですよ。こうしてみると幾原さんって最近は監督作こそ無かったものの、近年のアニメの動向については受け手としても、作り手としても、十分にステップを踏んできていたのではないかと思わされるのです。まわっピンが面白いのにも納得!(笑)
それにwikipediaの略歴なんかでは端折られてしまうので見落としてしまいがちですが、『ウテナ』のリマスター作業を行ったことも地味に大きかったのかも。監督のブログを読んでいると、実に1年以上にもわたって絵と音のレストアを行っていた事が分かります。ピングドラムで幾原さんは音響監督としてもクレジットされていますが、『劇場版ウテナ』ぶりの作業でいきなりのデジタルでの音響作業に対応できたのは、ウテナリマスターの経験が活きているからでしょう。(幾原さんが、演出家が音響作業も兼任する東映出身であることも関係してるでしょうが)