『輪るピングドラム』3話 : 視点転換とペンギンによるカムフラージュ

 面白ー!僕は小説版を既に読んでいるのであらすじは知っているはずなんですが、絵的な見せかたや小ネタがことごとく予想外の方向に突き抜けてて物凄く新鮮。
 それに今回はAパートの「高倉兄弟視点⇔リンゴ視点」の切り替えが華麗過ぎて感動した。アバン〜Aパート終了までだけでもパっと思い浮かぶだけで

・リンゴの幸せな三人家族時代の回想(アバン)
・リンゴとリンゴの母の微妙なすれ違い
生存戦略(牛バージョン)
・リンゴの登校→ショウマ達のリンゴ宅侵入
・リンゴ帰宅。
・リンゴの回想とカレー論。

これだけ色々な場面があって、しかも平行してペンギンネタが常に画面を賑わせている。おかげでなんともいえない、独特の濃度になってる気がします。
 情報濃度でいうと、リンゴちゃん宅にショウマ達が忍び込み、そこにリンゴが帰ってくるという場面が特に情報の取捨選択センスが凄いと感じた。「ピッキングで不法侵入」、「ネズミ捕りに引っかかるペンギン」、「家主であるリンゴの帰宅」と、実際に起こっている出来事自体が色々狂っててこちらの脳内処理が追いつかないのに、高倉兄弟視点で話が進んでると思いきや恐ろしいまでの最短距離でリンゴのモノローグ、「人類の歴史のなかで、人がはじめて作った料理は、カレーだったんじゃないかと思う」に焦点が移ってしまう。シビレますねぇ。
 
 他だと、「ヒマリのためなら手段を選ばないカンバ」と「それでも倫理観を捨てきれないショウマ」というのはテーマ的に重要そうな部分なんですが、シリアスな方向に振れそう部分であるにもかかわらず、そこであえて中和剤としてペンギンネタが画面の端っこで繰り広げられる事によって、あえてシリアスなようには見せてないんですよね。

やっぱここはマズイよぉ・・・。
ピングドラムがあの女の私物なら、ここにある確立が一番高いだろう。
でも、女の子の部屋に・・・可哀想じゃないか。
可哀想?あいつはタブキんちの床下に入り込んで盗聴までしていやがった完全な変態、ストーカー女だぞ。可哀想も糞もあるか!
だけど・・・。
お前ができないなら、俺がやる。・・・まあいいさ。お前の良心ってやつはヒマリのためにとっとけ。

 「ストーカー女だぞ。可哀想も糞もあるか」という部分を聞いて真っ先に思い出したのは『ダークナイト』のフェリーの起爆スイッチのシーン。そこでは一般市民が乗る船と囚人達が乗る船それぞれに爆弾が仕掛けられていて、起爆スイッチを押して相手の船を爆破すれば自分達の船だけは助かるという状況で、「倫理的に考えてスイッチを押すべきでない」とする人がいる一方で、「囚人なんかのために我々一般市民がリスクを負うのは馬鹿げてる!」としてスイッチを押すべきだと主張する男性が出てくるんですね。
 ダークナイトだと展開にわざとらしさが見えてわりと賛否両論あったりするシーンなのですが、ピングドラムの方は前述のペンギン達のおかげで「この対比ってわざとらしいよな」とか考えている暇がそもそもないんですよね。そして「なんか双子が言い争いしてるけど画面端のペンギンが気になって会話が頭に入ってこない!」と思っているうちに、気付けばリンゴちゃんがカレーを煮立てながら「人類の歴史のなかで、人がはじめて作った料理は〜」とポエムチックなモノローグをはじめてしまう(笑)
 1回につき放送時間が30分も無いテレビアニメだと、一度に説得力を持って深められるテーマの量は限られているので、テーマがいくつか出てくるとそれらを「数話」、あるいは「数クール」単位で消化していく必要があるわけです。そのためにはうまく情報を紡いでいく必要があるんですが、どうもピングドラムはそれがペンギンという裏技によって巧妙に行われていきそうな予感がしてます(笑)
 というわけで、次回もファビュラスマックスな内容である事を期待しつつ、一週間ワクワクしながら待ちたいと思います。