「名匠・出崎統監督を語ろう」練馬アニメカーニバル2019に行ってきた

 練馬アニメカーニバルで11月16日に開催されたイベント「名匠・出崎統監督を語ろう」に行ってきました。

 まずテレビ版『エースをねらえ!』最終話と、『ブラック・ジャックOVA)』3話「マリア達の勲章」を上映。続けてトークショーが行われ、プロデューサーの丸山正雄さん、アニメーション研究家の原口正宏さん、声優で『源氏物語千年紀 Genji』に出演した遠藤綾さん、進行役として書籍『ハーモニーという世界~アニメが名画になる瞬間』の編集者・菊地武司さんらが登壇しました。

焦った

f:id:samepa:20191117004850j:plain

遅刻しそうになりながら早足で撮ったのでピントがボケてる


 上映された作品はどちらも初見で、非常に楽しめた。隣に幼稚園か小学校低学年くらいの女の子が座っていて、内容についていけるかな? と他人事ながら心配になったが、終始おとなしく見入っていたようで、完全に杞憂だった。『ブラック・ジャック』の方は戦争映画ばりに戦闘で人がバタバタ死ぬ回だったので、そのあたりで大丈夫かな……と心配になったりもしたが。

 トークショーTwitterで軽くレポをしようと思いメモを取りながら聞いていた。しかし期待以上に興味深い話が多く、特に丸山プロデューサーは言葉の一つ一つに遺言じみた重みがあり、とてもツイートでは済ませられないと思いブログに残すことにした。

 判読困難な手書きメモを元に書き起こしたものなので、正確さの保証ができないことはご了承いただきたい。また、自分が面白いと感じた部分を中心にまとめているため、こぼれている話題も多々ある。

 

ハーモニーという世界~アニメが名画になる瞬間~

ハーモニーという世界~アニメが名画になる瞬間~

 

菊地さんが編集した、ハーモニー処理の絵がたくさん見れる眼福な一冊 

 

「出崎作品が消えるかといったら、消えない」

丸山 練馬は出崎とアニメを作り始めた場所。思い入れ深い場所で出崎の話ができてうれしい。

 

菊地 出崎監督と初めて仕事をしたのは『あしたのジョー』?

 

丸山 いえいえ、それよりかなり前ですね。東映動画による劇場アニメが普通な時代に、週に1本という、当時考えられなかったムチャクチャなことをやったムチャクチャな人が手塚治虫

 

会場 (笑)。

 

丸山 映画『西遊記』や漫画『ぼくのそんごくう』の後で、なぜか23歳の杉井ギサブローに『悟空の大冒険』で全然違う悟空を作っても良いと言えてしまう。(手塚は)ちょっと異常なんじゃないかと思ったんですけど(笑)。虫プロダクションはそういうことが許されるところだった。虫プロにはアニメについて分からない中で、『なんでもいいからやってほしい』と言われて入った。現在のアニメを取り巻く状況とは違う。

 出崎とは、麻雀の面子が足りないというので、『麻雀を覚えろ』と言われて、麻雀を覚えたてのカモとして出会った。麻雀をする中で僕がちばてつやファンだったことが伝わって、「ちばてつや原作だからお前なんとかせえ」と言われたのが『あしたのジョー』。

 虫プロは新人でも勝手に新作のプレゼンをして良い風習だった。それで新作が成立することもあれば、しないこともある。せっかくだからパイロット版を作ろうということになり、出崎が原作の拡大コピーを切り貼りして、仲間の撮影に撮ってもらった。「この手法(原作の切り貼り)で良いかは分からないが、とりあえずもう一本パイロットを」ということに。

 パイロットは丸っこいキャラクターで制作されたが、出崎が「これは絶対違う」と言い、作り直すことに。ちょうどスポ根ブームの兆しがあったころ。東京ムービーの『巨人の星』のスタッフを使いたいと言われたが、当然使えない。そこで、巨人の星』のスタッフたちに「合間で良いからちょこっと作ってくれないか」とお願いしにいった。

 

会場 (笑)

 

丸山 そうしてできたパイロットが、『あしたのジョー』第1話の一部で使われている。

 (出崎監督と組んだ最後の作品である)『ウルトラヴァイオレット』のときは、ある種の覚悟をしていた。僕には数人、そういうお別れをしてきた人がいるが、そういう人たちの作品は消えるかといったら、消えない。僕も当然、あと数年で業界というか、この世界から消えてしまう。それは自然なこと。しかし残したものが違うものに塗り替えられてしまうのはいかがなものかとは思う。出崎作品も、こうした機会に再評価されてほしい。

 

原口 『あしたのジョー』が日本のアニメにとって一つのターニングポイント。本来何枚も描く必要があるが、テレビアニメならではの、単に漫然と動かなくなることではない表現。出崎監督が『あしたのジョー』と出会ったときに、子どもたちではなく、自分に近い十代後半など同じ年代の人々に伝えることを考えたのではないか。

 まずジョーの気持ちに寄り添うための、スローモーションという手法(顕著なのが22話)。しかしスローは枚数を描かなければならないので、そこからさらに止まっていく(→後のハーモニー演出へ)。エースをねらえ!』でも水彩で描かれた一枚絵が使われていた。どうやって表現するかを模索する過渡期を『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』など複数の作品で経て、おそらく『家なき子』で完成した。杉野昭夫というアニメーターのタッチ。小林七郎の美術。高橋宏固の撮影。主人公の人生や燃え尽きる瞬間に我々をどれだけ巻き込むか。

 

丸山 虫プロは、アニメが発展する中でも異端児。『あしたのジョー』は虫プロの外のスタッフを呼んで作った、異端児の中でも異端児による企画。

 

遠藤 『Genji』のころ自分は若かったので、あまりお話できなかった。なかなか「カントク〜」っと話しかけられる感じではなかった。おだやかな印象で、いつもコンテなど、何か書いていた。

 

丸山 出崎は全話コンテなど、ものすごい仕事量。そんな中で、いつ時間を作っているか分からなかったが、2つの息抜きがあった。1つは先程も言った麻雀。ほとんど毎日やっていた。もう一つは若い女の子が好き。ビョーキなくらい好き。遠藤さんとあまり話さなかったのも、出崎が自分でブレーキをかけたせいだったんじゃないか。

 

遠藤 さっき楽屋で、麻雀と女の話はやめましょうっていったのに(笑)。

 

丸山 麻雀と女なしに、彼の話はありえない。

 

原口 出崎さんは合ってみるとすごいおだやか。「人生は出会いと別れの連続……じゃない?(茶目っ気のある言い方)」と言われたり。また他の場所でもよく『人生は旅だ』と仰っていた。でもお別れした感じはしない。作品は現在も生きている。

 

遠藤 師匠の野沢那智が、『Genji』の役が決まったときにとても喜んでくれた。「とても良くしてくれた監督だから、がんばんなよ」と。そんな作品に参加できて嬉しい。

 

丸山 訃報を聞いたときに、出崎は青春のまま、老成することを拒否したんじゃないかと。若い挑戦やエネルギーを守ったんじゃないかと。そういう生き方があるんだなと思った。そういうエネルギーは誰にも真似できない。「どうだ、俺のもんだぞ」ってほくそ笑んでるんじゃないかなと思ってます。

 

 『エースをねらえ!』の最終話は1974年放送で、『ブラック・ジャックOVA』の3話は1993年の作品。20年の隔たりがあり、スポ根な『エースをねらえ!』と、激シブな『ブラック・ジャック』というジャンルの違いもあるにもかかわらず、作り手の人生観に連続性が感じられる内容になっていて、出崎監督のクリエイターとしての強烈さを再認識させられた。

 

 2016年発行の雑誌『アニメビジエンス Vol.10』に掲載されたコラム「丸山正雄のアニメバカ一代 [最終回] 妄想代理人丸山正雄」に、丸山さんが脳卒中により入院したことや、歩行の補助に電動車椅子を購入したことなどが書かれていた。以来丸山さんの健康面がずっと気になっていたのだが、登壇時に早足でしっかりと歩き、お話もすこぶる面白かったので、なんだかとてもうれしかった。

アニメビジエンス Vol.10 (アニメビジエンス)

アニメビジエンス Vol.10 (アニメビジエンス)

 

丸山さんのコラムはスーパー名文なのでぜひご一読を 

 

 あと数年の命、なんてことを仰っていたが、そんなことを言いつつちゃっかり今 敏の漫画『OPUS』のアニメ化に向けて動いていたりとまだまだ全力でアニメづくりに関わっておられて本当にすごい(なかなか続報が聞こえてこないけど、信じて待ってます)。

 

 ちなみにイベント終盤に原口さんも言っていたが、テレビ版『エースをねらえ!』最終話と、その約5年後に制作された『エースをねらえ!劇場版』はストーリーが同様なのに、全く違う映像体験に仕上がっているので、未見の人は見比べてみると楽しめること請け合い。特に『エースをねらえ!劇場版』はマジのど傑作で、映像の格好良さに衝撃を受けると思うのでぜひ。

ひろみ対お蝶!最後の対決

ひろみ対お蝶!最後の対決

 
劇場版 エースをねらえ! [Blu-ray]

劇場版 エースをねらえ! [Blu-ray]

 

 2013年の初見時、ろくなツイートしてなかった……。