『蒼きウル』の再始動が伝えられてすぐ、「凍結資料集」をAmazonのマーケットプレイスで購入した。僕はそのとき5千円で手に入れたが、現在見事に3万円近い値段となってしまっている。しかもネット上ではAmazon以外で取り扱っているショップが見当たらない。もしかするとまんだらけの実店舗などでは普通に売られていたりするのかもしれないが。
- 出版社/メーカー: ガイナックス
- 発売日: 1998/07/10
- メディア: CD-ROM
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厳密にはソフト自体は動いたものの、スタッフの対談映像だけは再生できなかった。……が、そちらも頑張ったら再生できた。普通に再生しようとしたら「Quick Time拡張ファイルが読み込まれていません。」「スクリプトエラー: ハンドラが定義されていません」とエラーが出たのだが、Quick Timeをアンインストールし、ディスクに収録されているインストーラーでQuick Time 2.1.1をインストールしたら今度こそ再生できた。
見るからにレトロなインストール画面。
対談映像は山賀監督と鶴田副監督によるもの。対談以外ではキャラやメカ、美術の設定画や、イメージボード、コンテ(AパートとBパート)、脚本(Aパートのみ)などなどが収録されている。ぶっちゃけこんなに内容が充実しているとは思わなかった。
メニュー画面
設定画
絵コンテ
脚本
Wikipediaには「作業は絵コンテがBパート、原画がAパートに入った段階とのことである」との記述があるが、「凍結資料集」を見る限り、コンテはBパートの最後まで描き終えられていたようだ。以前Wikipediaを読んだ際には、映画が全部でBパートまでなのかと早とちりしてしまったのだが、実際コンテに目を通してみるとまだまだCパート、Dパートと続きそうな雰囲気である。ちなみに分量としてはAパートが55ページ147カット、Bパートは88ページ191カットだった。
「凍結資料集」の内容は『ウル』再始動に伴い、(部分的にせよ)なんらかの形で再リリースされると思うのだが、現時点でこれらの情報に新規で触れられる人間は
THE CONVERSATION
■企画誕生秘話
山賀 僕の視点から見ると、庵野と武田さんの企画を赤井がなんとか設定しようとしているという形式で、山賀ちょっとやってくれと言われて参加したという感じ。
鶴田 ああ、なるほど。
山賀 じゃあこれどんなふうな話にしますかって武田さんと詰めたら、どんな映画が武田さん観たいですかって言ったら、「格好良いものが観たい」(笑)。どういう言葉を使ったかは覚えてないけど、とにかく「格好良いヒーローもののアクション映画」が観たい、そういうものが好きだと。じゃあそれをやりましょうというような話をしました。
だから、じゃあそれを庵野に結びつけたときに、庵野の世界におけるヒーローというのがどういうふうな形が取れるのか。というところで、これも僕がなんでそういうことにしたかというと、結構意地悪……というのかな、意地悪ということでもないんだけど。庵野とヒーローものっていうのは一種ウルトラマン的なところで接点はありつつも、実はあの人の作家世界ではちょっとヒーローとか、格好良いとかってものがちょっとずれる。それを無理やり結びつけてみたらどうかなと思ってやったわけですよね。
で、なんで航空アクションものにしたかというと、昔から庵野はロボットは大好きだけど、飛んで行く浮遊感であるとか、スピード感であるとか、ああいう部分では凄いセンスを持ったアニメーターだったところがあるんで。だとしたら初心に戻るみたいなところで、庵野が監督のアニメやるんだったら、まあ何はなくともそういうところが格好良い(ものを作ろう)と(笑)。何がなくともというよりも、何かあったほうが良いんだけれども(笑)。何かあるっていうのは、まあ他の人が支えて作りゃいいやっていう感じで考えてた。
■合宿
山賀 絵コンテを作るにあたって、脚本は僕が書いてたんだけど、脚本を絵コンテにするにあたって、色んなスタッフを集め、色々なやって行き方として、『王立』のときのやり方をまずは踏んでみようかっていうふうに考えて合宿したんだと思うんですけどね。なんで合宿なんかしたんだろう、それも覚えてないな(笑)。
鶴田 結構不思議な作業でしたよね。
山賀 新旧色んな人を集めて、皆で脚本を読みながらアイディアを出させて、このカットをどうやっていくかというやつをやってましたね。で、コンテを組み上げる。
鶴田 全然違う人の描いたカットを繋げていくっていうのはなかなか面白かったですよね。
山賀 うん。まああれはあれで面白かったんですけどね。皆それぞれの流れで考えて、絵コンテをガーってやって、発表してんのに、「それこっちにしたほうが面白い」と、5〜6人のやつを行ったり来たりしながら(笑)。で、繋げてみると、なんかここが違うような気がするとか言って。「つまらない」とか、「普通だ」とか言って(笑)。おかしくしよう、おかしくしようという方向で考えてたから。
でもじわじわと言ってる方向は収束していきましたね。結局のところやりたいのは、アングルを引くときにはガーッと引いて、寄る時にはガーンと寄ってとか。横並びで切り返しのようなアングルは絶対撮らないようにするとか。わりとなんか、方向性はあの短いひと月ふた月の間になんとなーく、ああこの方向で組んできゃいいんだなみたいなものは出て来ましたね。マッキーがいつまでたってもね、「いや、ちょっと違うと思うんだよね」って(笑)。決まりかけると、「いや、違うと思うんですけど」とか(笑)。
どっかで分断が無いと面白くないっていうか。特にアニメ的に考えると、流れの綺麗なものを作っちゃいがちなんで、どっかでブツブツと分断をしていく流れを切っていくような絵コンテをどうやったら作れるだろうみたいな感じで考えてたような気はしますね。
■CG
鶴田 戦闘シーンをCGでやるってなことを、やっぱり増設したころ……
山賀 最初はね、それこそ『もののけ姫』みたいに、特殊効果としてちょろちょろ混ぜようかなと思ってたんだけど、やってく内に面白くなって、これどこらへんまでできるんやろというのが興味の焦点になってって(笑)。最初はMacでちょっとやろうかという感じだったのが、世の中にはシリコングラフィックスというえらいマシンがあるんだっていうのを聞いて。それはちょっと良いねという話で。いやそのシリコングラフィックスというものを揃えてやってるスタジオなんて殆ど無いんだぞっていうところから、そういうものの可能性ってどこまで行くのかなって。
だいたいCGの可能性っていうのは『王立』、もしくはもっと前のアマチュア時代からずっと探ってて。それこそパソコンで色々やって、どこまでできるかなっていうのを毎回毎回やってたんで、今回も少しは入るなとは思ってたんだけど。ちょうど時期がCGが脚光を浴びはじめの……まだ浴びてないみたいな。今のような話題になるちょうど滑り出しの時期だったので。そういう時期のものってなんか素敵じゃないですか(笑)。魅力的というのか。俺もこの流れに乗ってってみたらどうだろうかとかね、気軽に考えて。だから逆にCGをどう使っていけるのかっていうのは課題としてありましたね。
鶴田 当時なんか、CG使った妙な映画がありましたよね、アニメの。ありませんでしたっけ。
山賀 なんでしたっけ。変じゃなければ『美女と野獣』とかありましたけど。
鶴田 『美女と野獣』の頃ですか、丁度?
山賀 だったと思いますよ。『美女と野獣』で、踊ってるシーンが3Dでやってて。あ、こういう使い方があるんだと思って。だったらこれアクションで使わない手はないなっていうのはどっかで考えてたと思います(笑)。
鶴田 当時まだ、現場にあったのはMacでしたよね。
山賀 950。
鶴田 「クワドロの840おお早い早い」なんつって(笑)。そんな時代でしたよね。
山賀 使えるかなと思っていじってたのが2fxですから(笑)。今から思えばなんて無謀なことを考えてたんだろうという感じですけどね。
鶴田 そのまま進んだら結構面白いことになっていたかもしれない。そこが結構足を引っ張った結果になったかもしれないですよね。
山賀 でも、そういった意味じゃどういうふうに使うかはわりと慎重でしたよ。いきなり合成して、要するにコンピューター内部でデジタル合成して、それをフィルムプリンターで焼いてくなんてことは考えてなくって。背景としてツールプリントで全部紙で出して、それをブラシとか吹いて、立ち入れて、セル載っけて撮影すれば普通の背景扱いにできるはずだとか。わりとね、謙虚な姿勢は持ってたんですよ(笑)。
飛行機ものやるときの、特にアニメで飛行機ものをやるときの一番の課題はやっぱり奥に進む、画面の奥に進めない、もしくは向こうからやってくるものが作れないというところですからね。それをなんとかしたいという凄くちっちゃな望みでしかなくって。そういうカットをただ作って、不自由なくカメラが動いてるように見せたいというだけの考えでしたから。今よりはかなりちっちゃい望みでしたけどね(笑)。CGに対しての期待ってのは。
■鶴田謙二
山賀 鶴田さんが言った台詞で覚えてるのが、「僕を絵描きとして使わずに、演出の方で使ったのがちょっと面白い企画ですね」みたいなことを言ってたような記憶を。
鶴田 ああ、言ったかもしれない。今でもそう思うから多分言ったでしょう(笑)。とにかく絵描きとして見られることが多いじゃないですか。まあ絵描きですからしょうがないですけど。
山賀 うんうん。
鶴田 漫画を描くときって、絵もそうだし、演出もそうだし、シナリオもそうだけど、全部二流前後の腕前が要求されますよね。だからどれを取っても特化されてないというところがあって。だから一つ一つ取り出して試してみたい気分があるんですよね。
山賀 なるほどなるほど。
鶴田 ちょうどそういう気分とうまくはまったっていう。
山賀 絵のほうはね、確かに進んでいきゃあ、絵だけで勝負してみるっていうのは色々可能な舞台はあるけれども。漫画家が演出だけで勝負してみるという舞台はなかなか用意されないから(笑)。
鶴田 これはちょうどいいっていう感じですよ。とにかくアニメの理屈じゃないところで成立させようという、そういう野望がありましたけど。
山賀 アニメの理屈っていうのはどんなもんだと思ってたんですか。
鶴田 アニメの理屈ですか。アニメの理屈はですね、まあ漫画もそうなんですけど、実写と時間経過を合わせようとする傾向が最近のアニメとか漫画とかにあって。
山賀 ああ、時間がリアルタイムで均等に進んでいくパターン。
鶴田 でねえ、あれがねえどうも嫌だったんですよ。アニメの絵ってとにかく、長い時間見られるものじゃないんで。それを延々と見せるロングとか、例えばアップでも、台詞を全部言い終わるまでそのアップを見せるっていう、もう実写のやり方ですよね。
山賀 いやあ、それについていきなり話がちょっとずれるかもしれないけど。歌舞伎見て思うのがね、いやあもうアニメにそっくりだなと思うのがそのポイントで。歌舞伎って時間が1個のストーリーの中で伸びたり縮んだりして、見せててもだれちゃうようなまずい部分はさっさと切り上げちゃって、ここを見せとくとお客が喜ぶという部分はもういっつも伸ばしてて(笑)。ストーリーを見せていく分野としては時間の伸び縮みが激しいジャンルだとは思うんだけど。それを観てると、昔から日本人の芸能ってのはこれだよなっていう感じがあって。アニメが今流行るのがそれが原因だとまでは言わないけれども、そこら辺歌舞伎ともね、共通点を凄く感じることありますね。
鶴田 だからそこんとこだけでもいじれないかなというのはあったんですよね当時。
■未来編
山賀 昔の『ウル』っていうのは、今も話してて大変苦しく喋ってるように、記憶から消えちゃってるところが結構あって。その当時の状況からそういうふうな形で決めてった部分ってのもかなりあるんで。次やってくときは、『ウル』という同じタイトルでありながらも、だいぶ変わってるところは出てくると思うんですよ。
鶴田 自分の置かれてる状況結構反映されますからね。
山賀 うん。ましてやその途中に『エヴァンゲリオン』っていう大物があって、しかもそれが社会的に認知されてる部分があるわけですから。
鶴田 結果的に庵野さんの『エヴァンゲリオン』を受けて、山賀さんの『ウル』という形になるので。
山賀 庵野『ウル』、庵野『エヴァンゲリオン』、山賀『ウル』っていう形になってるんで(笑)。そういった意味じゃ全然違うことを考えていっても良いですね。たださっき言ってた時間の問題。あとアニメーターなり声優なりが作っていくアニメの演技の限界の問題。あとコンピューターの問題。これはその当時から思ってる問題を、流石にもう五年ぐらい……え?何年経ってるのかな(笑)。もう五年ぐらい経ってるから、その間に解決の方法も考えついてるものも一杯あるし、これを試してみたいという部分も一杯あるんで、その件に関しては割と真正面に、ちょっと突っ込んでいくところは、次もあるんですけどね。
鶴田 そうですね。ジャンルを超えてほしいですね。
山賀 ジャンル?ジャンルってなんですか。
鶴田 小説から入るでしょ。◯◯◯ますから(聞き取れず)、ジャンルと認識されてるあらゆるものをこう、渡り歩いてほしいですね。
山賀 それは良いところを突きますね(笑)。私もちょっとね、持てる全ての、自分が関わった全てのジャンルを串刺しにしてなんかできないもんかなとずっと思ってたんで。よくアニメとかやって突き当たる色んな周りの反応でね、「実写映画やらないんですか」とかね。実写とアニメって分けて聞かれることって多いんだけど、僕の中では全然それが分けられてなくって。ごっちゃまぜになってるから、聞かれた瞬間一瞬答えられないっていうのかな。「?」っとか思っちゃうんだけど。確かに世間的にはアニメはアニメだし、実写は実写なんだけれども。頭のなかでごっちゃになってんのね。
自分はまだ確かに、実写作品、商業的な実写作品て作ったことはないんだけども。頭の中じゃもうごっちゃだから、アニメやってても一緒だと思ってるんですよ。これは一緒だと言ってる感触というのは音楽もそうだし、色んなジャンルもあるし。例えば芸能界というものと、アニメっていうものはやっぱりなんか分離してるけれども、でも結構アニメは芸能だし。芸能界と言われてるものももちろん芸能だし。頭の中でごっちゃなこの感触っていうのを次、なんとかお客さんに、ほらこんなごっちゃな感触面白いでしょっていう形で出せたらいいなって思いますね。そういうのはちょっと私今回、狙ってるところです。
鶴田 頑張ってください。
山賀 頑張ります。
『ウル』がどういった方向性の映画か殆ど知らなかったので、こんなに早い時期からCGで勝負するつもりだったのかと驚かされた。CGで空戦というと、劇場大作としては『スカイ・クロラ』や『マクロスF』あたりを思い浮かべるが、最近はテレビアニメでもそうしたものが随分増えた。かつて『ウル』は膨れ上がった制作費のおかげで凍結されたが、いま作るとなるとCGまわりでコストを大きく抑えられるだろう。
対談を聞くまでは、今『ウル』を作るということは、当時バブリーに作画でゴリ押ししようとした表現を、現代の技術でCGに置き換える形になるのかと思っていた。しかしそうではなく、かつてどれだけお金をかけてもできなかったCG表現が、現在はそれほど無理をせずにできるようになったということか。
山賀監督は対談で「(『ウル』の企画は)ちょっとやってくれと言われて参加した」なんて言ってるが、この時点で既に5年も粘ってるのだから、凄い執念だ。この後さらに15年粘るのだから本当に凄い。
ネットで関連情報を漁っていて、93年に発行されたガイナックスの会報誌「G.Press」に収録されていた山賀監督のインタビューを見つけた。この時既に3年以内に完成させたいと言っているのが涙ぐましい。
・山賀プロデューサー「蒼きウル」直撃インタビュー
同じ方がアップされている1993〜1998年の『ウル』関連年表も面白かった
・今世紀最後にして最大の映画「蒼きウル」の可能な限りの進行状況を説明
こうしてみると本当に歴史を感じる……。
これまで『ウル』の情報は率先して探してこなかったこともあり、岡田斗司夫の『遺言』経由でかじった程度だった。そのため、岡田氏視点以外での『ウル』情報が新鮮で仕方ない。そもそも岡田さんは『ウル』は過去にやり残した大きな宿題と位置づけつつも、元々自身があまり乗り気ではなかった企画ということもあるのか、『遺言』内でも他作品に比べて触れている分量が少なかった。
『ウル』の公開はおそらく来年以降になるはずなので、それに向けて引き続き『王立』、『ウル』関連の資料は漁っていきたい。……というか、「凍結資料集」的なものは早くDVDなりで再販してほしい。ギリギリ見れるレベルとは言え、現在出ているものはCDROMなので流石に画質などの面でキツイ。欲しい人の手に行き渡らせほしいというのもあるが。