『プロメア』感想 今石監督のベストワーク

 『プロメア』は公式のロングPVがネタバレのオンパレードでネタバレという概念を打ち壊しているので、ネタバレとか気にせずに書いていきます。

とはいえロングPVはネタバレしすぎだと思うのでここには本予告の方を貼っておきます

 

 まずこちらが、なるべく事前情報を遮断し、公開初日の朝(ド平日)に見てきた直後のツイート。

 

 本日2回目の鑑賞を終え、よく見ると静と動の緩急が全くないわけではないことも分かりました。とはいえ「動動動動動動動動(静)動動動動動(静)動動動動」みたいな映画なので、鑑賞後の印象はやはり概ねこのツイートのような感じになりました。

 これまでの今石×中島作品を先祖返りさせてさらに洗練させたような映像・セリフが雪崩のように押し寄せ、上映中はただただ最高。ありがとう。ありがとう。と、念仏のように唱えていました。

 オタクは原体験的作品を親鳥だと思いついてってしまう習性があり、僕にとってのそれは『天元突破グレンラガン』なので、ラッパーが親に感謝しがちなのと同じように上映中はひたすら感謝の念に満たされまくりました……。

 

 『プロメア』を除けば、近年の今石監督のベストワークは『宇宙パトロールルル子』(2016年)だと思ってます。個人的に『ルル子』は放送時結構な驚きで、なぜなら(『パンスト』という巨大な例外を除けば)『Re:キューティーハニー』『天元突破グレンラガン』『キルラキル』で散々観てきた最高な今石作品たちを支える骨子となっていたのは中島脚本で、『ルル子』は中島脚本ではなかったから。

 『ルル子』では今石監督の泥臭さが、まごさんによるかわいらしいキャラクターデザインや、その後『SSSS.GRIDMAN』で時の人となる雨宮副監督の情緒豊かな演出で中和され、これまでの猪突猛進な作風からやや外れた新境地に見えました。

 そんな『ルル子』を挟んでからの『プロメア』。サンジゲンの3Dのハマり具合は過去最高レベルで、作画との融合という意味では1つの到達点と言って良いのではないかと。

 『龍の歯医者』『ダリフラ』でオープニングを手掛けた荒牧さん&千合さんコンビのOPシークエンスもスタイリッシュでぐう良かったですね。コヤマさんの色彩センスとか、若林さんの選曲とか、シュッとしたものと今石さんの泥臭い作風を闇鍋で煮詰めるととんでもなくピーキーで最高な映像が錬成される魔法はなんなんだろうな。

 

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新宿バルトナイン1階で撮影

 

 OPといえば、バーニッシュがストレスを起因としているように描かれてたのに、その後本編であまりその側面が掘り下げられなかったのが引っかかりました。また、バーニッシュは作中で社会的に迫害される描写があり、『X-MEN』のミュータントの設定を参照しているように見えます。そんな「発火」を作中最後で治癒(キュア)してしまうと、個性の否定に繋がりテーマと食い合わせが悪いのでは? とも思ったのですが。

 これについてはしばらく考えて、「ストレス≒不完全燃焼」と理解することで腑に落ちました。この前提であれば、「本来誰もが内包する性質である」という含みが持たせられる。炎生命体であり不完全燃焼による不満を抱えていたプロメアは、ストレスを抱えた現代社会の人間にN/O的な空間を超える手段でコンタクトを試み、発火現象を引き起こしていたのではないかなと。

 バーニッシュを誇りある個性として受け入れていたリオくんが、最後に炎生命体と離別するシーンはちょっぴり切なかったですね。中島さんはインタビューで、当初『ヒックとドラゴン』のようなジュブナイルをやろうとして、改稿を重ねた末に内容が大きく変わったと語っていますが、あの場面は『ヒックとドラゴン』の名残りなんじゃないかなと思ったりしました。

 ちなみに、中島さんは差別される者との共存というテーマについては「劇団☆新感線」の方でもずっと描いてきているとパンフインタビューで語ってました。その辺の文脈については疎いので、近いうちに中島さんが手掛けた舞台も見てみたいなあと思ったり(この件を抜きにしても見たい)。

 

 今年は『スパイダーバース』という最強のアニメ映画が公開されていて、あのクラスの映像体験は向こう5年味わえないのでは? と思ってましたが、『プロメア』がひょっこりその位置に入ってしまった。『天元突破グレンラガン』から12年。『キルラキル』から5年。これからもトリガーの作品を追いかけていきたいと思わせてくれる、ファンをやっていてよかったと心から思える作品でした。