「ダーリン・イン・ザ・フランキスが酷い」が酷い

「これがエヴァの呪縛か……」と、鏡で自分の姿を覗き込むような感覚にさせられたので触れておきます。

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増田氏は追記で『エヴァ』について「好きじゃねーよ」とわざわざ否定してみせていますが、それこそツンデレっぽいし、終始「エヴァとここが違うからダメ」とレッテルを貼って回っているようにしか見えない。一時期全てのアニメを「『ヱヴァQ』的であるか否か」でしか測れなくなった過去がある身としては、お気持ちとても分かるのですが。

 

 ■そもそも前提がおかしい

増田は『フランキス』の1話を「『逃避的な態度だった主人公ヒロが戦いの決意をして敵を倒すまで』の話」であると要約しています。そして、『エヴァ』におけるシンジの逃避と決意の理由がしっかり描けている点を挙げ、転じて、『フランキス』第1話がそれを描けていないと批判している。

しかし、1話目は厳密には「決意→成功(ヒロが敵を撃破)」という内容ではないわけです。表面的にはヒロが乗り込んだことで、主役機・ストレリチアが覚醒し、敵を倒してはいます。しかし続く2話を見て分かるとおり、主人公が真の意味で乗り込んで*1いたかについては、早くも強い懐疑が向けられる。

増田は、ヒロが何やら葛藤を抱えている点や、それを乗り越えさせるべく叱咤するナオミの台詞が上滑りしており、このような展開は『エヴァ』を見習いもっと話数を重ねてからやるべきだったとしています。この主張は一見もっともらしいのですが、それは『ダリフラ』が『エヴァ』をなぞった話運びになることを前提にした場合の話です。

増田やその他多くの視聴者が指摘している通り、確かに『フランキス』には「『エヴァ』っぽい」部分が多い。個人的にも、錦織監督の過去作を見ていなかったため*2、まさかここまでガイナロボットアニメ直系の内容になるとは思っておらず、驚きました。ですが、だからといって全て『エヴァ』との対比で考えようとするのは、かえって作品理解を妨げます。

要はこれ、『エヴァ』的なものは序盤でとっとと処理して、もっと先の、別のことを描こうとしているからなのではないかと思うのです。

 

■歴史的に明らかな挫折

2話アバンでヒロの「記憶は無いが、自分の力で飛べたと信じている」といった趣旨のモノローグが流れます。

ヒロは何やら自信をつけている様子ですが、こうした無根拠な自信は、『エヴァ』でシンクロ率が高まり調子に乗ったシンジがディラックの海に飲み込まれる第16話。『フリクリ』でカンチを乗りこなしているのは自分だと勘違いし、増長したナオ太が単に部品としての役割しか担っていなかったことが分かる第5話。『トップ2』で「一緒に星になろう」と誤った万能感に飲み込まれる第5話のラルク……

など、過去のガイナ作品で無数に描かれてきた、上げて落とす展開そのものであり、実際2話ラストでヒロは歴史的必然性に導かれて挫折を味わいます。

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調子に乗って、その後突き落とされる16話のシンジ。

ダリフラ』第1話の「成功」は単に「成功」として描かれたわけではなく、「成功の後の挫折」を予感させる前フリであり、「もう次の話題に移りますよ」という宣言でもあるわけです。

 

■「ヒロ」ではなく、「コドモたち」の物語

エヴァ』は突き詰めていえば、自己と他者のコミュニケーションの問題を、シンジ(≒庵野)個人の内面にフォーカスして描いた作品です。2話で早くも『エヴァ』との差別化を感じるのは、準主役級キャラ=コドモたちの多さです。

エヴァ』でもミサト、アスカのような準主役級のキャラは複数登場します。ただし、シンジを含め、彼らは他者とどのようにかかわるべきか分からないという悩みを抱えていながら、それは群像劇としてではなく、より内面的な自問によって解決が模索されていく。

一方『ダリフラ』では、2話目にしてイチゴがヒロやメインヒロインのゼロツーを食ってしまう勢いで痛々しさを発揮しているし、そんな彼女の影にはまたまた深い闇を抱えていそうなゴローがいて、さらに彼らが所属するプランテーションには他に6人のコドモたちが控えている。

群像劇として『エヴァ』とは違う展開が待ち受ける予感しかしないので、やはり違う尺度で見ていくほうが適切だろうと感じるわけです。

  

■押し付けられた「性」

群像劇の先に何を描くのかについては、3話の放送が終了したばかりの現時点ではそれこそ妄想のような予想しかできません。コドモたちが「性」を抑圧された(あるいは「男性性」「女性性」という形で押し付けられた)状態から、何らかの形で解放されるまでのお話になりそうだというのはなんとなくうかがえます。

そのための設定的なひねりとして、ヒロが男性(ステイメン)ではなく、女性(ピスティル)パイロットとしての資質がありそうなことも早い段階から匂わされています。しかし匂わせるのが早すぎるので、そんな展開すらも中盤あたりで乗り越えられ、終盤の超展開の前座として処理される可能性もあり、油断ならない作品だなあというのが現段階での感触です。

あ、そんな妄想の話はさておいて、増田氏の論調で気になったのがもう一点。増田は今石監督について「トリガーで監督やるようになった今石と錦織は、樋口真嗣と同じで、人の手足となった時に有能なタイプ」と評しているんですが、それはちょっと厳しくないですか?

作画監督向きの人が監督をやる不幸」と切って捨てていますが、今石さんが作画監督を担当すると今石色が前面に出る*3ため、増田の言う「人の手足となった時に有能なタイプ」に当てはまるとはなかなか思えないのですが。でもまあ、それは余談でした。

55点。

 

*1:(これは『スタドラ』用語です。増田さん、スタドラを見てください……あなたの脳内に直接語りかけています……)

*2:恥ずかしながら『THE IDOLM@STER』も4話の鶴巻コンテ回しか見ていない

*3:もちろんそれが魅力だと感じる人もいます。あと、『ダリフラ』へのアクション監修としての参加や、『リトルウィッチアカデミア』へのコンテでの参加など、ロケットパンチ的な飛び道具としての登板には完璧に応えるタイプだとは思います。しかし増田は「作画監督向きの人」と雑で謎な括りで切って捨てようとしてるからなあ。