『エヴァ』テレビ版感想:12話 なぜミサトは苛立っていたのか

少し間隔が開いたが、エヴァ感想を再開する。
今回の話数は一回では理解し切れず、二回観た。そこでミサトの心情について大きな発見があった。
 
第12話、「奇跡の価値は」
 
・シンジのエヴァとの高いシンクロ率に驚くリツコ達だが、ミサトは苛立った様子で、「本人は望んでいないことなので、きっとシンジは嬉しくないだろう」といったこと言う。後になって分かるのだが、これは彼女がシンジに自己投影している部分がある。
その後、シンジはリツコから直接褒められるが、そのせいでアスカの嫉妬を買う。

アスカ「大したことないわよ!良かったわね、お褒めの言葉を頂いて。」
シンジ「(愛想笑い)」
アスカ「先に帰るわ!バーーカ!!」


胸がキュンキュンしてやばい。僕が好きなのはこのアスカ。
 
・ミサトとふたりきりのシンジ。シンジは上記のアスカとのやりとりについて素朴にひとりごちる。

シンジ「どうして怒ったんだろ。何が悪かったんだろ」
ミサト「さっきの気になる?」
シンジ「はい」
ミサト「そうして、人の顔色ばかり気にしてるからよ」


ミサトさんがイライラし過ぎてて笑える。アスカ並の沸点の読めなさである。
ミサトは、アスカがシンジに怒ったのはシンジが「他人の顔色ばかり伺っているから(=嬉しくないにも関わらず愛想笑いしていた)」からであるというのだが、僕はアスカが怒った主な原因はシンジに対する嫉妬としか思えない。嫌味を言われてもヘラヘラしているシンジに全く苛立たなかったとは言い切れないが、アスカが怒った主要因はそこではなかったはずだ。
狂ってるなと思うのが、直後に開かれるミサトの昇進祝いパーティーで、ミサトもちゃっかり愛想笑いしている点だ。つまり、あれが同族嫌悪による完全な八つ当たりにしか見えないのである。
・それにしてもあんな理不尽な事を不意に言われてブチ切れないシンジは凄いなぁと思う。幼少時よりコミュ障なゲンドウが側にいた経験がしっかり活きている証拠ではなかろうか。
コミュ障といえば、ミサトの昇進祝いの席にて、シンジは「人が多いのは苦手なんです、なんでわざわざ大騒ぎしなきゃならないんだろ」と、ついこのあいだまでアスカとドタバタラブコメをやっていたとは思えないようなメンヘラアピールをし出す。
今回テレビ版『エヴァ』を再視聴するにあたっては、テレビ版が「変」になっていく転換点を見極めることを重要なポイントに定めていたのだが、12話がそれにあたるのかもしれない。今回は一気に旧『エヴァ』特有の根暗庵野臭がプンプンである。この話数は新劇場版『破』と見比べたらあまりの肌触りの違いに相当困惑しそうだ。今から『破』を見返すのが楽しみである。
  
・落下型使徒サハクィエル登場。

青葉シゲル「目標を映像で捕捉」
日向マコト「はぁー、こりゃ凄い」
ミサトさん「常識を疑うわね」
サハクィエル「・・・。」


 
・ミサトとリツコの会話が今回の話数におけるミサトの心情を端的に浮き彫りにしている。

リツコ「やるの?本気で」
ミサト「ええ、そうよ」
リツコ「あなたの勝手な判断でエヴァを三体とも捨てる気?勝算は0.00001%。万に一つも無いのよ」
ミサト「ゼロではないわ。エヴァにかけるだけよ」
リツコ「葛城三佐!」
ミサト「現責任者は私です。……やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です」
リツコ「仕事?笑わせるわね。自分のためでしょ。あなたの使徒への復讐は」


She said,”Don't make others suffer for your personal hatred”.
彼女は「個人的イライラで他人に迷惑をかけるな」と言った。
正論過ぎるよリッちゃん。
 
・これまで英語サブタイトルの事はすっかり忘れていたので、今までのものをざっと見返したが、気づいた点があったのは10話の「The Day Tokyo-3 Stood Still」だけ。既に知っていた人には常識かもしれないが、『地球が静止する日(The Day the Earth Stood Still)』のオマージュだったのか。今回始めて気づいた。
 
・使徒受け止め作戦の概要を聞いて

シンジ「……勝算は?」
ミサト「神のみぞ知る…ってところね」
シンジ「(あ、コイツ目がイっちゃってる)」


・この角度から映ってるサハクィエルがやたら格好良い。あと、この話数は見返す度になんとなく『フリクリ』の4話を思い出す。ダブルヘッダーはキツイぜ!


・『エヴァ』にはしばしばエレベーターで印象的なシーンが出てくるけど、ここのシーンも地味に好き。格好良い。鉄柵が強調されていて、かつエレベーターが移動しているカットってだいたい好き。絶対運命黙示録


 
・アスカは何故エヴァにのるのかと問われ、自分の才能を世の中に示すためと言い切る。対して「乗っている理由が分からない」と言うシンジに「あんたバカ?」と投げかける。「そうかもしれない」と返してきたシンジに、冷たく「ホントにバカね」と言い放つ。
使徒迎撃作戦成功後、ゲンドウから褒められて喜ぶシンジ。エヴァに乗っているのはゲンドウに褒められるためなのかもしれない、と、今回気づいた事をラーメン屋で打ち明ける。一回目に比べ、少し優しい「ホントにバカね」で〆。
新劇場版『破』の「ホントにバカね」はまた違った感じのトーンに感じたが、記憶がブレてきているので今回そちらには触れないでおく。
 
・この「ホントにバカね」というのが超弩級の名台詞なので、そちらに目が行ってしまって今まで殆ど気にしていなかったのだが、隣でラーメンをすするポーズのまま、じっとシンジを観察しているミサトが超重要ポイント。これってミサトが何を思ってシンジを見つめているかを視聴者に考えさせるカットだったのか。これまでのミサトの描写が殆どここに集約されている。

シンジのゲンドウとの関係を見て、父親が既に他界しているミサトはこの瞬間、何を感じたのだろう。素直に応援したり、祝福したりする気持ちだろうか。それとも羨ましさや嫉妬だろうか。もしくは、父親の生前に関係を修復できなかった後悔か。……もしかしたらその全てかもしれない。
12話のあの瞬間には様々な思いがミサトの脳裏をよぎったのではないかと思うのだが、ミサトは19話「男の戦い」では、「正直私は、あなたに自分の夢、願い、目的を重ねていたわ。それがあなたの重荷になってるのも知ってる。」と言っている。しかしその言葉はシンジの耳には届かない。19話、シンジがネルフを去ろうとする場面で、以下のような会話がある。

シンジ:アスカはあきれてこないでしょうね。
ミサト:ええ、よろしく、とも言ってなかったわ。
シンジ:彼女らしいです。安心しました。
ミサト:そうやって愛想ばかりついてると、これから先辛いわよ。
シンジ:それはミサトさんの生き方です。僕にはできません。

http://www.magi-system.org/old/eva/ewd_19.htm

シンジにはミサトが自分より強い人間であるように見えているのだろうが、12話を見る限り、その実両者に大きな違いは見受けられない。ミサトとしては、自分の経験上「愛想ばかりついていると、これから先辛い」と言っているのだと思うのだが、シンジはこれを、「愛想をつかずに生きてきた強者の理論」として受け取ってしまっているのではないか。悲しいすれ違いである。
 

ミサト:それは分かってるわ…本部までのパスコードとあなたの部屋はそのままにしておくから。
シンジ:無駄ですよ、片付けておいてください。
シンジ:僕はもう、エヴァには乗りません。
ミサト:(積極的に話をしている…始めてね、こんなの…)

http://www.magi-system.org/old/eva/ewd_19.htm

過去に19話を観た際には、「積極的に話をしている…始めてね、こんなの…」という台詞が上から目線に聞こえたのだが、これまで見てきた文脈を踏まえるとまた違って見えてくる。この場においてシンジは「ネルフから出ていく」という行為について、一切愛想を見せていない。その意味で、ネルフから出ていくことがシンジにとって良いことなのではないかと、ミサトは思ったのではないか。……19話に関しては文字情報として振り返っただけで、まだ映像と音声では見返していないので、実際に再視聴した際には違って見える部分があるかもしれない。何かあればまた書こうと思う。
 
・次回予告。「MAGI、それはネルフ本部全てを掌握するトリプルスーパーコンピューターシステムである。何の変哲もない日常下である技術局一課による定期健診。引き続き行われるシミュレーションプラグの稼働実験。だがそのとき、事件は起こった。次々と侵されていく地下施設、セントラルドグマ。ついに、自爆決議を迫られるネルフ。次回、「使徒、侵入」。さーて、この次も、サービスサービス!」
次回はみんな大好き磯光雄脚本回。
 
これまでも12話は大好きなエピソードだったが、説明できない引っ掛かりを感じていた。それは主にミサトのギスギス感についてだったのだが、今回これがだいぶすっきりしたので非常に満足。
そんなわけで次回につづく!(次回更新はたぶん月曜以降になる)
・次回感想→『エヴァ』テレビ版感想:13話 女性陣の色気がやばい
・全話感想もくじ→『エヴァ』テレビ版〜旧劇場版/『新劇場版:Q』全感想目次