『戦国コレクション』3話感想 ピンドラコレクション!

空気感が好きすぎて困ってしまう今期イチオシの『戦国コレクション』。『ピングドラム』と同じブレインズ・ベースが制作ということもあり、あちらからスタッフが流れてきているらしいのですが、先週放送された三話がいつにもましてピングちっくだったので、衝動的にいろいろまとめてしまいました。
といってもやたら丁寧に作られている作品なので、今更僕がまとめる必要があるのかという疑問もありますが…。

アバン 美しい戦国世界 

謙信 綺麗ね兼続。
兼続 はい、謙信様。
謙信 この美しい戦国の世界を私の手にできたら、とても素敵だと思わない?そうでしょ、兼続?
兼続 はい!謙信様が天下をお取りになればこの世界がもっと……はっ!(目が覚める)

今回は基本的にこのアバンのシーンの派生が要点として何度も出てきます。いかに兼続が現代の世界に居場所を見つけるかって話ですね。「居場所が無い→灰色の世界」という見せ方がいかにもピングちっく。しかもアバン後、最初に「灰色の世界」が示唆されるのが「食卓」で、しかもその際の料理が「カレー」と来るもんですから、凄い徹底っぷりに思えてきます。

「食卓」と「彩り」

謙信 ん〜!こっちの食べ物はどれもおいしいけど、このカレーというのは格別ねー!今日のはいつもと違う感じだけど、何か特別なものが入ってるの?
兼続 今日のは牛すじのカレーなんです。牛すじをトロトロになるまで煮込んで、缶詰トマトの水煮を入れました。トマトの酸味が意外と牛すじと合うんです。
謙信 うんうん。
兼続 あとコンニャクは食感のため。これはたこ焼きに入ってるのを見て思いついて。
謙信 ふーん。
兼続 それから隠し味にお味噌と…あいじょう
謙信 うん?
兼続 ああいえ、なんでもないです。そんなことより味はどうですか?
謙信 うん、おいしいよ。けどカレーって美味しいんだけど、ちょっと彩りに乏しいわよね。

兼続 彩り、ですか…。
謙信 でも彩りなら野菜もあるし、そんなに気にすることじゃないわね。

 
また、謙信さまが深夜にイカ塩辛を食べたくなる体質であるという謎設定が披露された後に、再びアバンのようなやりとりが別パターンで登場します。

謙信にとっては美しい現代

謙信 あら、雲が切れたわ。見て兼続、月よ。良いわね、こういうの。あちらにいたころは毎日戦いにあけくれて、こうしてゆっくり月を見ることもなかった。このままずっと、こんな暮らしが続くと良いわね。そうは思わない?兼続。
 

兼続 え、ええ、そう…ですね…。

ここでも謙信目線、兼続目線で月の色調が違っているんですよね。
さらに、続く夢の中での回想シーンでも同様の演出が繰り返されます。

現代にタイムスリップした場面(回想)


 
と、これまで見てきた通り、世界の色味が失われる演出は既にこれ以上ない程親切丁寧に描写されているわけです……が、さらに『戦コレ』は『ピングドラム』のようなポエミィ路線とは一線を画すべく、視聴者を置いてけぼりにしないために最新の注意を払い続けます。

兼続ちゃんの日常風景

魚屋 よう兼続ちゃん!今晩煮付けなんかどう?ほら見てよこれ。良い色してるだろう。
兼続 ええ…。
 
兼続 私と謙信様がこちらの世界に飛ばされてからもうどのくらいになるだろう。最初は何もかも勝手が違って戸惑うばかりだった。時間をかけて少しずついろんな事に慣れて行き、やがて謙信様はここでの暮らしを楽しむようになっていった。そう、戦いに明け暮れることのない穏やかな暮らしを。けど、私は違う。ここでの暮らしが続くうちに、いつしか私の見る世界からあらゆる色が失われていった。きっと私はこの世界に拒まれているのだ。
 

兼続 私にとってここは、見るもの全てに色が感じられない、灰色の世界。

全部説明してくれちゃう!高尚な表現たろうとする欲などなく、とにかく、オチの感動を視聴者全員に平等に届けたいがためのこの律儀さ!
さらに…

喧嘩して家出する兼続ちゃん 心情を再説明
兼続 私の夢は謙信様と共に戦い、都に上杉の旗を立てること。謙信様の夢を叶えたい。その手助けをしたい。ずっとそう思って手助けをしていた。時には謙信様と共に軍略を練り、またある時は翼を広げ、戦場の中を舞った。けど、謙信様が天下取りを諦めてしまったこの世界ではもう、私の夢が叶うことはない。
 

兼続 ここは夢の見られない、灰色の世界。

もういちどおさらい。これでもかと、兼続目線では世界が灰色に見えるのだと、視聴者に刷り込んできます。
そしてクライマックス。
 

クライマックスだ!

謙信 一体どうしたっていうの!急に出ていったりして。
兼続 謙信様が、謙信様が天下取りの夢を諦めてしまったら、私はどうすれば良いんですか!?
謙信 ど、どうすればって…。
兼続 私、謙信様と一緒に都に上杉の旗を立てるのが夢でした。だから、だから、謙信様がその夢を諦めてしまったら、天下を取るのをやめてしまったら、私、もう謙信様に何もして差し上げられない!お側に使える意味が無い!
謙信 意味がないって!これまでのように身の回りの世話をしたり、ご飯を作ってくれれば良いじゃない!
兼続 そんなこと、私じゃなくてもできることです!この世界は、私の居るべき世界じゃないんです!ここに私の居場所は無いんです!
謙信 私は他の誰でもない、あなたの作ったご飯が食べたいの!
兼続 (はっ!)
謙信 だから戻ってきて、兼続!そしてこれからも私のために毎日美味しいご飯を作って!あなたのいる場所は私のそばよ!兼続!
兼続 謙信さまー!

と、世界に色が戻ってハッピーエンド。
最後は兼続の見る世界に色彩が戻ったことを象徴するかのように、虹まで出現します。これにて一件落着。
それまで謙信に依存しまくりで特別感情移入できるわけでもない兼続ちゃんが執拗に描写されていましたが、最後の最後に謙信が
「これまでのように身の回りの世話をしたり、ご飯を作ってくれれば良いじゃない!」
というデレなのかダメ人間なのか微妙なラインの発言をすることによって、二人の関係が「兼続 =>謙信」という一方的な依存ではなく、「兼続<=>謙信」という相互依存だったことが判明するどんでん返しが気持よかったですね。見事なバカップルぶりを見せつけてくれました。
このあとお約束のウテナっぽい戦闘パートがありますが、3話目にして既にオマケ程度の扱いで笑いましたw

ウテナっぽい

 
■その他気になった点
・兼続の涙がいやに綺麗。

戦コレは1話からちょくちょくこうしたさり気なく美しい効果が見受けられます。撮影さんパワー。
 
・イカ塩辛食べてる謙信を叱っておきながら「クリームチーズのアンチョビ和え」、「枝豆とエビのすり身を春巻きの皮で巻いて、油で揚げたもの」、「煮込み」を次々と食べ与える兼続。
 
・特別作画が荒れている印象は受けませんでしたが、兼続ちゃんの顎が強調されたキャラ修正は気になりましたw ただ、これスケジュールがいっぱいいっぱいだからこうなったのではとかいう話ではなくて、OP、EDを見る限り、案外初めから今回のキャラ達(特に兼続)はこんな感じの顔で行くことが決まってたんじゃないのかなーとか思ったり。こうしてみると意外と統一感はあるんですよね。

左から本編→OP→ED 意外と統一感あるよね!

それだけにアイキャッチを見たときに吹き出しましたが。

アイキャッチ

↑誰だお前!w
「誰だお前」と言えば、直後のCMとのワンツーパンチもなかなか強烈でしたが…。

イカ塩辛を食べる謙信さまと字幕が無ければ誰だか分からないもう一人の謙信さま

後半1クールでときメモガールズサイドのような感じでキャラが男女総交代みたいな展開があればこのアニメは伝説になる。
 
・家出した兼続ちゃんを探す際、律儀にゴミ箱の中もテェックする謙信さま。

イカ塩辛もだけど、こうしたどうでも良い設定を次々使い捨てていく感じがとても好き。
 
 
今回は書いていて、そもそもエントリの当初の趣旨が「ピングっぽさ探し」だったことを忘れてしまっていました。ので締めにピングっっぽさ漂うラストカットも紹介。

仲良くカレー作り

 
ピングっぽさで言えば、「他の誰でもない、あなた」という言葉が兼続を「灰色の世界」から救い出すきっかけとなったことや、元々の運命(戦国で天下統一)から一歩ズレた所で幸せを見出す*1というモチーフもそれっぽく感じました。
 
それと、『ピングドラム』と絡めた『戦コレ』3話感想は実はまっつねさんが既に書かれていたりします。

謙信さま、完全に時籠ゆりやん
もしも、理想の百合パートナーがいたらって感じでしょうか。
 
ダメ男の石田彰と悪女の桃果から開放されて、
中原麻衣演じる愛の化身と幸せにって感じ。
 
中原麻衣に「羽根」が生えるのも
南極の犬のように二人別世界に取り残されるのも、
ピングドラムを思い出させる。

戦国コレクション3話〜輪るピングドラム 時籠ゆり番外編〜 - まっつねのアニメとか作画とか

 
能登麻美子繋がりで謙信さまをストレスフリーとなったゆりさんと捉えるのは面白いw
あとはやはり美術の良さは特筆すべき点だなぁと。

橋格好良いよ橋

 
今回はたまたま「ピングちっくだったから」ということで取り上げましたが*2 *3、キャラデザ、美術、画面の全体的な色合い、ゆるい空気感、毎話なかなか完成度の高い1話完結形式等々…、この作品はどこをとっても妙にツボなので、また何か書くかもしれません。
『戦コレ』はなにより2クールアニメであること自体、何やら波乱を予感させるんですよねw

*1:この、「元とは一歩ズレた所で幸せになる」というのは、『ピングドラム』では最終的に、メインキャラ四人は元々の「運命の人」とは違う人と幸せになりますが、あちらはそうした幸せ(愛)が円状に循環するイメージがあるので、もっと開かれた感じでしたけどね。この辺のニュアンスは「ひまわりの向く頃に(http://rui-r.at.webry.info)」のルイさんがユーストで上手く語ってた気がするけどログが見つからない。

*2:ちなみに1話は『フリクリ』っぽかった。ベスパ&謎の女による襲撃&綺麗な空き瓶(ラムネの瓶じゃなくコーラだったけどw)&甘酸っぱいラスト。偶然なのか、ラムネの空き瓶はEDに出てきますね。スタッフ内にフリクリファンか榎戸オタでもいるんじゃないかと疑いたくなるレベルw

*3: ←EDのラムネ