『京騒戯画』感想 フリクリなようでフリクリでない

楽しみにしていた『京騒戯画』をやっと観ました。
この作品、発表された時からずーっと期待していたのですが、その期待に違わぬ傑作でした。誤解を恐れずに言えば、『フリクリ』が好きな人にオススメしたいアニメです。逆に言えば、万人受けする内容ではないとも思います。「脳みそ置いていかれる感じの作品」に生理的な気持ちよさを感じるタイプの人は気に入るんじゃないかと。
本作を観てつまらないと感じた人がいたとすれば、それは単純に「尺が足りないから」とか、「話がわけわからないから」というわけではなく、その人が作品のフックとなる部分に引っかからなかったからではないかという気がします。僕の作品の見方が全面的に正しいとは思いませんが、今回は「自分はこう楽しんだ」というような話をしてみようかと思います。当然ネタバレを含みますので、本編未見の人は気をつけてください。
現在、本編はニコニコ動画のプレミアム会員ならばタイムシフト再生で見れますが、そうでない人は明後日(12月10日)の本公開まで待つ他なさそうです。
(→※本公開されました)

本編
youtubehttp://www.youtube.com/watch?v=E7_hASY3BFw
ニコニコ:http://www.nicovideo.jp/watch/1323412048

あまり置いてけぼりを食らうのは嫌だなという人は、本編視聴前に公式ホームページの「京騒戯画とは」と「ストーリー」という項目に目を通しておく事をオススメします。

京騒戯画とは→http://www.toei-anim.co.jp/sp/kyousogiga/kyousogiga/
ストーリー→http://www.toei-anim.co.jp/sp/kyousogiga/story/

 
本作の監督は『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』の松本理恵。松本監督はまだ26、7歳の若さだというのだから驚きです。前作の劇場版ハトプリがとんでもない傑作だったものですから、公開前から本作の情報は色々集めるようにしてました。ですが、これがまあ全然情報が出てこなくて。見つけられたものといえば、せいぜい公式ページで公開されたプロデューサーへのインタビューくらいでした。

東映アニメーションプロデューサー「浅間 陽介」 インタビュー:http://www.toei-anim.co.jp/sp/kyousogiga/special/20110510_01.html

そうした情報に前後して公開されたのがこちら↓の二種類のPV。それぞれ今年の3月30と6月24日に公開されました。

40秒バージョン

(→高画質版:ページがみつかりません バンダイチャンネル
 
5分バージョン

 
PVが公開されてからは大した新情報もなく、先日そのまま本編の公開を迎えたわけですが、これがまあ凄い。ぶっちゃけ終始何やってんだか分からない。簡単に僕が理解できた部分と理解できなかった部分を書き出しますと・・・

・主人公のコトちゃんは「くろうさぎ」を探し出し、今いる「鏡の国=鏡都」から「元いた世界=京都」に戻ろうとしている(→ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』がモチーフ)
・もう一人のコトがよくわからん三人組のお母さんという事らしい。もう一人のコトを復活させる鍵となるのが、主人公のコトちゃん。
・最後にもう一人のコトを呼び戻すことには成功するが、コトちゃんは元の世界に戻れなくなってしまう
・コトちゃんが冒頭で戦ってる連中がなんなのかは分からない。狐のお面の人もよく分からない。ロボに食べられることがもう一人のコトを呼び戻すきっかけとなったのもよく分からない。コトちゃんの弟分として出てくる二人の使い魔(?)もなんなのか分からない。
・「Now loading」がいまいち分からなかったのが悔しい。

うーむ。
 
劇場版プリキュアが王道な作りだったので、こんな変化球が来るとは思っていませんでした。見終えてまず、本質的には「本編」も、本編公開前に配信された「PV」も同質のものだったんじゃないか、というような事が頭をよぎりました。
そもそも僕は6月に公開された予告編のロングバージョンを観てこんな事を言ってました。

京騒戯画PVのロングバージョンが公開されてますね。どうも本編を切り貼りしたものと言うよりは、元々PVとして作った映像であるという印象を受けました。とても魅力的な映像なんだけど、本当にOVAか何かとして本編を作ってるんですかね。いや、作ってるんだろうけど。そして俺得なんだけど。

http://twitter.com/#!/samepacola/status/84065302257729536

この感想、我ながら鋭かったと思います。改めてPVを見返すと、本編には使われていない映像が所々出てきます。それも「お蔵入りになった映像」というよりは、「本編の映像を切り貼りした際に、説明不足となる部分を補足するための映像」といった感じ。これ、おそらく本編をプロモートするという目的の他に、PV自体を単体の映像作品として成立させようという意図のがあったのだと思うのです。そうした事は、PVなのに最後にスタッフロールが流れることからも伺えるのではないでしょうか。
公式ホームページの「京騒戯画とは」、という項目にこんな一節があります。

時間の止まった京都を舞台に繰り広げられる、「黒兎」を探すさまざまな人々の群像絵巻。
ポストモダンさえ行き詰った現代に、最高のアクションファンタジーをお届けします。

http://www.toei-anim.co.jp/sp/kyousogiga/kyousogiga/

これを読んで、「ポストモダンさえ行き詰まった現代」を生きる我々の状況を戯画的に表したのが、時間の止まった京都=鏡都なのではないかと思いました。
ポストモダンではシミュラークルが氾濫して、個々人がデータベースにアクセスして勝手に楽しむものだ、というような事を東浩紀が『動物化するポストモダン』で言ってたと思うのですが、それが行くところまで行ってしまったと。
そんな現代を戯画化した世界「鏡都」において、人々の信仰の対象や「母親」という絶対的なものの名残として、失われて久しい「コト様(もうひとりのコト)」の存在が出てくる。そして最後に、そんな大きな物語的な絶対性を持ったキャラが復活し、大団円風な雰囲気が流れるのですが・・・、最後の最後になって

コト   : 私たちも帰りたいんでお願いします!
コト様 : 何を?
コト   : え?
コト様 : コト、あなたもう帰れないわよ。
コト   : ええええ!!?

と、主人公のコトちゃんは突き放されてしまう。それまで、今作には大目的として【主人公のコトちゃんは今いる「鏡の国=鏡都」から「元いた世界=京都」に戻ろうとしている】という事くらいは視聴者に共有されていた。僕としても、コトちゃんが混沌とした世界から元いた京都への帰還に成功する事により、救済されて終わるのだろうと思っていたんです。ところが、「いや、そんな救済描く気なかったんだよね(笑)」と、最後に言われてしまった。そこでコトちゃんにシンクロしてしまったのです。「ええええ!!?」。
 
じゃあ今作の主題ってなんだったのだろうと冷静になって振り返えってみました。そこで結局、テンポの良い台詞運び、気持ちの良い音楽や画面構成自体が作品のテーマだったのではないかと思い至ったんです。もう以前の世界には戻れなくて、この混沌とした世界でやってくしかないんだぜ、という。
それってメタメタで自己言及的なんですけど、そんな現状を決してシニカルに描いているわけではなく、実に楽しくアニメートしてくれている。そこが『京騒戯画』を「『フリクリ』っぽい」と呼んでしまうと誤解があるかもしれないと思った一番の理由で、本作では思春期的なグダグダのようなものは全く問題とされていないんですよね。
 
本編とPVが同質なのではないかと思った部分というのはやはりそうした所で、『京騒戯画』が「アニメーションとしての気持ちよさ」そのものを主題としている部分があるということは、「本編」で楽しむことだけが絶対なのではなく、本来ただのプロモーションの一環でしかない「PV」にまで、立派なシミュラークルとしての強度が与えられているのではないか、という事なんです。
 
自分としては勝手にこのような解釈で本作品をある程度完結した作品として楽しんでしまえてるのですが、やはり欲をいうと、そうした事をメタ的なレベルでなく、コトちゃんの今後を描く形でも描いて欲しいと思いますね。『京騒戯画』の今後の展開に期待したいです。
とりあえず「本編」の本公開日である12月10日にウルトラジャンプ公式ホームページに松本監督のインタビューが掲載されるようなので要注目。
 
 
※追記
監督のインタビューが公開されました。

アニメ監督 松本理恵さんインタビュー(ウルトラジャンプ公式HP)
http://ultra.shueisha.co.jp/column/3/1/1/

また、現在本編を観ると最後に「2012年3月 次期展開発表! 乞うご期待!」(ネタバレ反転w)と表示されるようになってますね。wktk。