2010年代 テレビ/劇場アニメ 私的ベスト10

2019年も今日で終了ということで、2010年代のお気に入りのテレビアニメと劇場アニメを10本ずつ上げていきます。

配信独占作品も珍しくない昨今なので、「テレビ」「劇場」といったくくり自体があと数年もするとさらに曖昧になってきそうな気もしつつ。

なお思いついた順番で紹介していくため、紹介順に優劣はありません。ベタに選んだので意外性もありません。 

 

テレビアニメ2010年代私的ベスト10(配信独占/OVA等を含む)

●その1『インフェルノコップ』(2012年)

『SSSS. GRIDMAN』の雨宮哲監督作品。YouTubeで全話見れる(※イベント上映しかされていない番外編も存在する)。際限なくクオリティを追求する現代アニメへの究極のカウンターであり、この批評性溢れる眼差しは2010年代を代表するアニメに相応しい。

超省力演出はその後『ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン』へと受け継がれるが、源流は『宇宙戦艦ティラミス』などで知られる博史池畠監督が大阪芸大時代にアニメーション研究会「グループCAS」で制作した作品群に由来するらしい。歴史的経緯については以下の記事に詳しい。

【特集記事】後世に残したいアニメ表現【デフレ】特集!!

 

『インフェルノコップ』第1話

雨宮監督のエヴァ愛を感じることができる第11話

 

●その2『SSSS. GRIDMAN』(2018年)

いきなり雨宮監督作が2連続。とにかく第1話の抑制の効いた空気感と鷺巣詩郎劇伴を最大限に活かす1話後半の盛り上げに掴まれた。シリーズを通しては、第9話の五十嵐海コンテ回が最高。

オマージュ元同士がバッティングして一部要素が噛み合っていないようにも感じたが、そんなところも含めて勢いが魅力の作品だった。

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●その3『ガッチャマン クラウズ』(2013年)

ガッチャ! 最終話は想像の余地が残る分、円盤に収録された完全版よりも放送版の方が好き。ネット(SNS)と実社会の結びつきを描いたSF活劇として、うっかり攻殻シリーズあたりより面白いところを突いていたと思う。

2期の『インサイト』はスロースタートすぎたものの後半はきっちり面白いので、序盤で脱落してしまったひとも頑張って見てほしい。あとOPは1期2期共に最高に格好良い。

中村監督の新作が『インサイト』から5年も見られなくなるのは完全に誤算だったので、どうかそろそろ新作を見せてください……。

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●その4『STAR DRIVER 輝きのタクト』(2010年)

「これは自分の人格を形作る作品になるっぽいな」という感覚を覚える作品にたまに遭遇するが、本作は自分にとってまさにそういう存在。

しなやかで格好良いロボット。愛すべきキャラクター。ワクワクするストーリー。人生に起こり得る輝きを目一杯提示してみせた豪速球。この10年で『スタドラ』の最終話より見返したアニメはないかもしれない。

 

●その5『キャプテン・アース』(2014年)

『スタドラ』に続いての五十嵐卓哉監督、榎戸洋司脚本作品。アニメっぽいキャラ配置、アニメっぽい世界観、アニメっぽいメカを揃えた上で、作中で描かれるドラマはとても生々しく、そのギャップが楽しい。『スタドラ』ほどのキャッチーさは感じなかったが、放送後も2周3周と見るごとに味わいが増した。

余談だが、本作でヒロイン・夢塔ハナが宇宙船の生体部品としての運命から自立の道を辿る筋立ては、『エヴァンゲリオン』新劇場版シリーズで“初号機ごとヴンダーに取り込まれた綾波”となんとなく重なる(いうまでもなく新劇場版には榎戸さんが脚本参加している)。さらに遡ると『スタドラ』でザメクのドライバーを運命づけられていたスガタや、『ウテナ』のアンシー(薔薇の花嫁)も源流と考えられなくもないのかもしれない。

 

●その6『宇宙よりも遠い場所』(2018年)

1話目からただごとではない風格漂うアニメだったが、特に思い入れ深いのは2話目。少女たちがけらけらと夜の歌舞伎町を走るだけで、こんなにも心躍る映像になるのかと。

部活で居場所を無くしドロップアウトしたキャラクター・日向の元同級生らとの決着の付け方は良い意味で現代的で良かった。

いしづか監督の2020年代にも期待。『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』を見ていないので、次回作までに見る。

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これは『よりもい』を見終えていても立ってもいられなくなり友人らと日本最北端に行ってきた筆者。めちゃくちゃ寒かった(2018年4月撮影)

 

●その7『モブサイコ100』(2016年)/『モブサイコ100 II』(2019年)

アクションが毎回ひたすら最高で、OPは10GAUGEの依田さんだし、全部が最高のアニメ。

『よりもい』はいろいろな生き辛さと向き合ったアニメだったが、『モブサイコ』も近いところを攻めていた。碇シンジ的なナイーブさ(雑)を今、正面から解きほぐすとしたらどういった手順が必要か? を丹念にやり遂げた作品ではないかと。

原作からの持ち味であった部分も多く、原作者ONEの作家性にもあらためて驚かされた。この原作をチョイスし、この戦力を投入しようとGOサインを出した南社長も偉い。

 

●その8『輪るピングドラム』(2011年)

今年放送された『さらざんまい』もお気に入り度は高いが、『ピンドラ』では眞悧というキャラクターの暗さと、作品から溢れる優しさのコントラストにどうしようもなく惹かれた。

地下鉄サリン事件のあった1995年という年に決着を付けるのだという、幾原監督の不意打ち気味な問題設定に驚かされたのも大きい。もともとメッセージ性の強い作家ではあったが、もっと抽象度の高いものを好んで作る印象があったし、実社会の出来事をあれだけ反映してくるとは思っていなかった。

監督は東日本大震災が起こったことで作品の方向性を変えたと語っているが、後から加えられた優しいトーンが、企画当初の暗く重いテーマと衝突する感じがまたヒリヒリと来た。2010年代でなければ誕生し得なかったという意味では屈指の1本。

 

●その9『血界戦線』(2015年)

本当にすげーーーーアニメ。原作は漫画『トライガン』の内藤泰弘。『トライガン』はドタバタしたコメディテイストもありつつ、終盤にいくにつれ重たい殺伐としたテーマを扱っていた。その反動として、『血界』はもっとドタバタでコメディ寄りな作風に。ただしキャラクターが持つ美学や精神性の強度は『トライガン』のそれを引き継いでいるため、スラップスティックでありつつギラギラした魅力を併せ持っている。

そんなやんちゃな原作を、『トライガン』信者だった松本理恵監督が思いの丈をぶち込みつつアニメ化。原作第1部ラストに位置づけられるエピソード「妖眼幻視行」とほぼ同時並行で制作されていたアニメ最終話(オリジナル展開)が、結果的に同じ着地点に至った奇跡にただただひれ伏すしかなかった。誰よりも原作を読み込み、精神性を受け継いだ者の成せる技である。松本理恵、お前がナンバー1だ。

参考:季刊エス2016年1月号

原作「妖眼幻視行」を読んだ松本理恵がその返歌としてアニメ版最終話を作ったのだと思い込んでいたら、実は同時期に並行して作られていたという衝撃の事実。そのあたりの経緯は「季刊エス」のこの号の松本監督インタビューが初出のはず。

 

松本理恵の傑作MV『ベイビーアイラブユーだぜ』からはや1年。『血界戦線』からもそろそろ5年経つので、いい加減テレビか劇場での新作も見せてほしい。  

●その10『I can friday by day!』(2015年)

龍の歯医者』も見事だったが、あえて鶴巻監督作品を1本入れるとしたらこちら。4分程度の短編ながら、MV的な絵と音楽がシンクロする気持ち良さと、抽象的に描かれたラブストーリー(紛争)を読み解く楽しさがギュッとつまっている。

合法的に視聴するには『龍の歯医者』特別版BDで見るしかないので、買いましょう。『シン・エヴァ』完結後の2020年以降は鶴巻監督オリジナル新作にも期待したい。ちなみにNeko Jumpによる主題歌はカラオケに入っていたりする。

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↑これはたぶん世界で唯一鶴巻和哉が松本理恵に言及しているインタビュー。この回答を引き出したインタビュアーは天才。

 

劇場アニメ2010年代私的ベスト10

●その1『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』(2018年)

ここに「『ヱヴァQ』以後」があるので、「エウレカ」シリーズに少しでも思い入れがある人で未見ならいますぐ見てほしい。

このハイエボ3部作は1本目が「どうしてこの始まり方にしたの?」というかなり人を選ぶ内容だったのだが、2作目『ANEMONE』でギアが異様な噛み合い方を見せた。1本の完結した活劇としての満足度も、シリーズの総決算としても超一級品。2021年の完結編にも期待したい。

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●その2『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』(2018年)

漫画『文豪ストレイドッグス』テレビアニメ化後の、完全新作劇場版。五十嵐監督榎戸脚本作品3本目なので、チョイスの偏りが目立ってきた。

 最高のキャッチコピー

 原作ファンではなかったが、かゆいところに手が行き届きすぎるテレビアニメ化に舌を巻き、そこからさらにこんなポテンシャルを引き出せたのかと脱帽した1本。キャラクターの罪との向き合い方がとにかく誠実で、あんな手つきで物語の展開を見せられたら、こちらも襟を正して向き合わざるを得なくなる。

とはいえキャラクターへの思い入れが本当に薄かったため、最低限の理解を得るために3度の鑑賞を要した。テレビシリーズ2クールの予習も必須なので、そういう意味ではハード。

 

●その3『この世界の片隅に』(2016年)/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019年)

「風景をそこまで詳細に再現する必要、ある?」→「ある!」という狂信。ほぼ歴史研究の域に到達した制作手順はアニメ史に残るものだと思う。映画としては2015年版のほうが好みながら、よりすずさんのパーソナルな映画に生まれ変わった2019年版も良いものだった。

 

●その4『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014年)

『SSSS. GRIDMAN』でも活躍したグラフィニカ制作のオリジナルアニメ。若手育成に従事してきた板野一郎氏直伝の“サーカス”が躍動する様も至高。

3Dでも作画的な快楽のある画が作れるのだというのを知らしめた功績は大きいし、3Dのオリジナルアニメ映画をヒットさせたこと自体あまりにもえらい。メイキング動画は一見の価値有り。

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・その5『ドラゴンボール超 ブロリー』(2018年)

生きている内にこれほどわくわくできるドラゴンボールの新作が見れるとは思わなかった。リブートを成功させた意味では『神と神』も偉大だが、そこからの集大成(というには独自色がすごいが)という意味でこちらを入れた。

アクションもゴリゴリに最高だったが、ブロリー幼少期のエピソードは鳥山テイストが効いていて良かった。「魔人ブウ編」のサタンとブウ的なウィットさというか。また、鳥山脚本が尺を70分もオーバーしそうだったところ、的確に取捨選択を行いバトルの尺もたっぷりと取った長峯監督の手腕も見事。

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●その6『夜明け告げるルーのうた』(2017年)

2010年代の湯浅監督作品では特に『四畳半神話大系』『ピンポン』『DEVILMAN crybaby』が好きだが、『ルー』は別格で刺さった。ちなみに放送中の『SUPER SHIRO』も面白い。

『ルー』は終盤が大好きなのだが、オープニングがあまりにも天才(見るたびになぜかあそこで号泣してしまう)。タイトルに「ルーのうた」と付いてるのだからサントラCDを出してくれと言い続けて2年以上が経過した。

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●その7『天気の子』(2019年)

新海誠の商業的ブレイクはこの10年最大の収穫だったと言って良い気がする。新海監督の過去作ではほしのこえ』『君の名は。』など好きな作品もあったが、『天気の子』ほどピンポイントで刺さる作品を作ってくれるとは思っていなかった。

実は途中までは乗り切れない展開が続いたが、ラブホを出てがらりと雰囲気が変わり、警察署から飛び出るあたりからはもう最高だった。 

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公開2日目に2度目の鑑賞を終え感極まっている様子

  

●その8『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年 ※日本公開は2019年)

海外作品からこればかりは、という1本。冒頭で主人公・マイルスの部屋が映し出された時点で、画面のあまりの豊かさに自然と涙が流れた。スパイダーマンとして覚醒する「What's Up Danger」が流れるシークエンスはそれまでの突き抜け切らない展開の反動として異様なカタルシスがあった。

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●その9『プロメア』(2019年)

『スパイダーバース』を見て、「こんなアニメ作られたらもうそっちの方向性で日本のアニメの出る幕ないじゃん……」と打ちのめされた傷を、すぐさまアロンアルファで止血してくれた2019年のカンフル剤。

今石監督は近年『宇宙パトロール ルル子』という傑作も雨宮監督と共に生み出しているが、あちらは雨宮監督の繊細さを上手く取り込んでいたのに対し、こちらは原初的な今石成分を煮込んだ感じ。と言いつつ、脚本のやりたいことや、コヤマさんあたりがデザイン面に仕込んだテーマ性、若林さんの選曲など、やはりチームの勝利でもある。

興行収入の初動がにぶくヒヤヒヤしたが、次第に固定ファンを掴んでいき最終的に2019年を代表するヒット作になってくれて本当に良かった。

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 公開初日に布教ツイートをバズらせることができたのはファンとして本望

 

●その10『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』(2019年)

まさかまだ見てない人はいないと思いますが、絶対に見ましょう。現在は上映館もじわじわ増えて、予約に3週間も待つ必要はなくなっているはず。 

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ゆるい日常ギャグとNARUTOやモブサイコっぽい作画アクションを超高度にミックスさせた最高な作品。『スパイダーバース』とは別の角度で、こんな作品が日本以外から出てくるのかと驚かされた。どうやら死ぬまでいろいろな角度から好きなアニメが見られそうだな、という喜びがある。

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●その11

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(2012年)

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『ヱヴァQ』公開時、新宿バルトナインにて撮影。

 

●その12

シン・ゴジラ』(2016年)

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2019年12月31日 日比谷ゴジラスクエアにて撮影。

ベスト10からはみ出ているどころか、後者に至ってはアニメですらない。しかし庵野作品と庵野信者の絆に、もはやアニメかどうかなど関係無いのです。

作品の良し悪しという次元の話ではなく、最も人生を捻じ曲げてくれたのが『ヱヴァQ』であり、続く10年の希望を示してくれたのが『シン・ゴジラ』であった。2021年には『シン・ウルトラマン』もやってくるが、その前には2020年6月27日『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が待ち受けている。

そんなすでにヒリついている状況下で、ダイヤモンドオンラインで庵野監督による特大の爆弾連載もスタートした。

diamond.jp

 

周辺情報からなんとなく察していたものの、すれすれで表沙汰になっていなかった出来事が大量に記されていて、読んでいて非常に辛かった。こんなことのために、『シン・エヴァ』の作業の手が一時停止していると思うだけで胃がひっくり返りそうになる。

が、そこは作品のブランディングを含めた総合的な演出を重視する庵野監督である。この連載も含めて、ファンに最高の状態で『シン・エヴァ』を届けるための準備でもあるのだと受け止めたい。

完結を見届ける覚悟は全くできていないが、それでも6月27日はやってくる。ひとまず、その日まで生き延びたい。

 

次の10年が、あらゆる意味でより良い10年であることを願います。良いお年を。