『夜明け告げるルーのうた』ネタバレ感想 情緒不安定の裏側

 2回観てきました。オープニングとラストのクライマックスがあまりに素晴らしい。
 作品内容がそうであるように主人公・カイが情緒不安定気味ですが、2回目でやっと感情の流れが多少整理できた気がします。「みんな - わたし - あなた」の距離感を、裏主人公ともいうべき遊歩の存在と合わせて考えると把握しやすいです。


 遊歩はバンドで「みんな」から注目を浴びたい女の子で、YouTubeで話題になったカイに憧憬のまなざしを送ります。一方カイは「みんな」からの注目にはあまり興味がないようで、どちらかというと特定個人(=「あなた」)からの愛情を欲している様子。また、カイは遊歩とは違い「好き」と素直に伝えることができない性格です。これは遊歩に「音楽が好きなんだよ」と言われても「ただの暇つぶし」と答える登校シーンや、「ルーのこと好き?」と聞かれて言いよどむ夜のブランコのシーンなどで分かる通りです。


 ただしカイは内向的な性格のわりに感情の起伏が激しく、鑑賞中に「『なぜ』気分が上向いた/落ち込んだのか」を見落とすと振り落とされやすくなります。作中で心情変化の大きなポイントとなるのは、ルーと二人きりで夜街を散策するシーンと、漁港でルーがライブに「参加したい」とバンドメンバーに伝えるシーン。
 既に指摘した通り、カイが一番ほしいのは特定個人(※作中の分かりやすい相手は「ルー」と「母親」。母親については後述)からの愛情なので、夜の街で過ごしたルーとの二人きりの時間は、彼に取ってかけがえのないものとなります。おかげで翌日、国夫のお寺に遊びにいったときはテンションが異様にアッパー気味となってました。逆に落ち込むシーンも露骨で、それはルーが「みんな」に見てもらえるライブに自分も出たいと、セイレーンのメンバーに伝える場面。カイはここで、「みんな」に対しある種の嫉妬を覚え、ルーに裏切られたような気持ちになったように見えました。カイがスマホを海に捨てるのは、またルーに届けてもらいたい、という気持ちの裏返しのようにも見えて、ちょっぴり微笑ましかったです。
 カイが精神的にふさぎがちになるのと平行して、遊歩のルーに対する嫉妬も描かれます。ルーはたちまち「みんな」の人気者になってしまうため、脚光を奪われた形の遊歩は面白くありません。遊歩が構ってちゃん的なツイートと共にスマホを捨てたことが発端となり、クライマックスに向けたルーをめぐる騒動が勃発します。


 ルーは一貫して「カイ」も「遊歩」も「みんな大好き」なので、最終的にカイと遊歩はルーに謝り、仲直りをします。そしてカイはクライマックスの歌を歌いきり、ルーの元に駆け寄りながら「みんなルーのことが大好きだよ」と前置いた上で、「自分がルーのことを好き」であることを、今度こそちゃんと伝えるのです。また、カイが歌を歌うシーンでは、ルーの顔がカイの母親とダブるカットがあります。母親はダンサーとしての人生を選び「出ていった」とされており、カイにしてみればルー同様、カイ個人よりも「みんな」に認められることを優先したんだという思いがあったのかもしれません。
 カイはルーとの交流を通して「みんな - わたし - あなた」の関係が共存できるものと受け止められたので、最後に母親に返信の手紙が書けたのではないかと思います。カイの母親をめぐる葛藤については、作品冒頭で未開封の手紙を大量に保管しているシーンを見過ごしてしまうと、一気に分かりづらくなるので要注意ポイントです。


 と、2回目の鑑賞はそんなところを意識しながら見てましたが、結局一番好きなのはメタモルな絵だったり、おじいちゃんが傘を持って駆け付けるぐうカッコ良くて泣けるシーンだったりします。最後におじいちゃんの遺影が出てきますが、海に飛び込んで、タコ婆同様人魚になってしまったんですかね。その他気になった点では、主要登場人物の母親が一切出てこないところとかでしょうか。あとオープニングが音楽含めて本当に最高なので、はやくサントラが欲しいです。