『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』感想 たのしいザック・イン・ワンダーランドに飛び込もう

めくるめくザック・イン・ワンダーランドで最高でした。ヒーロー映画でこれだけ楽しめたのはノーランバットマンぶり。以下、ネタバレ感想。


ジャスティスの誕生」というタイトルを具現化したような冒頭&ラストシーンがとにかく最高でした。
まず冒頭の詩的なバットマン誕生シーン。少年時代のブルースが井戸に落ち、コウモリに出会い、バットマンになるというお馴染みのやつ。本作の肝となるのがここの「落下と上昇」というモチーフ(と、勝手に思ってる)*1。ブルースは井戸に落ちたあと、飛び出てきたコウモリたちと共に上昇していく。ラストのスーパーマンの復活は、これと対になってるように見えました。すなわち、スーパーマンの死=埋葬=転落と、復活=上昇。棺の上に被せられた土が上昇して幕、というのが絵的にもリンクして見えて美しかったです。



そういえばスーパーマンは前作『マン・オブ・スティール』でも飛行訓練で墜落した際、再度飛び立つ前に地面の土や小石を浮遊させていました。

壮絶な死を遂げたスーパーマンをラストで安易に生き返らせたら物凄く陳腐になってしまうのでは……と初見時にはらはらしましたが、そこが最大の杞憂でした。それまで散々繰り返しておいた“神”というモチーフを活かして、露骨なまでにキリスト教におけるイエスの復活に展開を被せてくるわけですね。また、落下/上昇モチーフはレックスの言う「悪魔は空から来る」という台詞にもかかってくる気がします。レックスが逮捕される際、レックスの部屋に飾られた絵画の悪魔が意味ありげにアップで映りますが、あれは次回作以降で地球に降りかかるであろう厄災の暗示でしょう。善なるものが天上天下どこから来るのかは知りませんが、地球に災いが起こるのであれば、どちらにせよヒーローは必要になる。その最強のヒーローの復活を告げてエンドロールに突入するラストが実に気持ち良かった。
ついでに、レックスはスーパーマンとの対面時に「チクタクチクタク、遅刻だぞスーパーマン」的なことを言ってましたが、これは『不思議の国のアリス』の白ウサギですね。白ウサギといえばアリスを穴に誘い込む(落下させる)役。冒頭のバットマン誕生シーンの落下で真っ先に連想したのが『不思議の国のアリス』だったので、実際に「アリス」絡みの台詞がでてきて驚きました。
 
随所でぶつ切り気味なストーリー展開に不満の声も上がっていますが、言うほどぶつ切りだったでしょうか。確かにブルースがスーパーマンと戦争状態になった未来を幻視するシーンでは随分大胆な繋ぎ方をするなと思いましたが。あのシーンはレックスから盗んだメタヒューマンに関する情報にアクセスを試みたことで、『シュタインズゲート』で言うところの世界線の変動が生じた結果、起こりうる最悪の未来を幻視したと解釈できるし。謎の赤い服のキャラクターが「俺たちを探せ」と言いながら時空の彼方へ消えていったのが次回作への伏線であることも、仲間探しに乗り出す終盤のバットマンたちを見れば意味は理解できます(あれはフラッシュというキャラクターらしいですが、事前知識が無かったのでそれは後から知りました)。
バットマンに罪を被せようとする陰謀劇がなんだか分かりづらかったのは、もう少しやりようがあった気はしますが、まあそれはそれとして。
強いて言えば、バットマンがスーパーマンを敵視する理由が個人的には掴みきれなかったかなあ。ただそれについてもアルフレッドに対して言っていた、20年間バットマンとして世間を見てきて、その間正義を維持できた人物がどれだけ居ただろうか、という言葉を聞けば納得できなくもない*2。まああとはベタだけど、抑止力としての武力をどう捉えるかってやつ。スーパーマンの存在を最強の武力=抑止力と考えることもできるけど、それこそが外敵(この場合は悪意を持った宇宙人)を引き寄せる要因にもなってるよねという。だからこそスーパーマンに消えて欲しいと考えるのがバットマンで、他方レックスは同等以上の力を持って覇権を握りたいと考える。


ヒロインのロイスが、バットマンがスーパーマンにとどめを刺そうとするところに仲裁に入るシーンで吹き出す人もいるようですが、個人的には『マン・オブ・スティール』終盤での無理矢理な登場に比べたら問題なく許容内。ロイスは仲裁を目的にバットシグナルを目指してヘリコプターで飛んでいくわけですから、その場に居る必然性は観客に事前に知らされているわけです。一方『マン・オブ・スティール』ではスーパーマンたちが宇宙規模で飛び回って殴り合いをしてたのに、最終的な落下地点になぜか偶然ヒロインがいるので、あれは無理です笑います。ただ、『バットマンvsスーパーマン』もロイスが槍を水中に投げ込むシーンは本気で意味がわかりませんでした。きっと深い理由があるのでしょう。
母親の名前が同じだったからという理由でとどめを刺さないバットマンも、初見時には違和感がありましたが、よくよく考えればそれほど変な思考ではない。自分の母親の名前を突然呼ばれて取り乱していたところにロイスが現れ、実はスーパーマンの母親が自分の母親と同じ名だったと知る。そこからの逆算で、スーパーマンの母が人質に取られていること、自身がレックスに利用されていたことに気づき、スーパーマンへの復讐心が揺らいでいく。バットマンが槍を投げ捨てるまでの間に、そうした逡巡があるわけです。スーパーマンが最初に端的にそのことを話せば済んだ話と言えばそれまでですが、そうならなかったのはスーパーマンの自分の力を過信した傲りと、バットマンの狂人地味た復讐心による周到な準備があったからでしょう*3
 
映画館で2度観てきましたが、本当に面白かった。2回とも近くの席から気持ちよさそうな寝息が聞こえてきたけど、僕は本当に面白かったです。2回目は隣に座ってた女性が終盤でボロボロ泣きだして「(わかる……わかるぞ……)」って心の中で頷いてました。二つ隣に座ってた女性が中盤のザック・スローモーション・サイミンジツにやられて気持ちよさそうな寝息を立てて気絶してたわけですが。いや、寝る要素ないでしょ!BDが出たらまた観ると思います。
 
追記 本エントリを公開した直後になんだか嫌な予感がして、まさか……と思い『エンジェルウォーズ』のWikipedia記事を見に行ったら、「スナイダーによると本作は「マシンガンを持った『不思議の国のアリス』」と書かれていてやっちまった感が。いや、『エンジェルウォーズ』そこまで嫌いな作品ではないんですけどね。

*1:ノーラン版の「ダークナイト」三部作でもブルースの父の言葉「Why do we fall」が大切なモチーフとして出てきましたが。

*2:直近のノーラン版バットマントゥーフェイスという例があるし。

*3:と、自分に言い聞かせて無理やり納得することにした。