『攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain』考察 / 素子の部屋に隠された真実

この記事には物語の核心に関わるネタバレが含まれています。まだご覧になってない方はご注意下さい。
 
攻殻機動隊ARISE』はその名の通り、これまでの『攻殻』の前日譚にあたる。
それを象徴するのが、前髪パッツンになった、草薙素子の新しいキャラクターデザインだ。
常人離れした言動が印象的だったこれまでの少佐に比べ、
『ARISE』の素子は未熟さや人間味が感じられ、なんだか可愛い。
 
上記の特徴はチャームポイントでもあるが、当然、弱点にもなる。
素子は今作の時点で既に「ウィザード級ハッカー
と呼ばれているものの、見事ウィルスに感染し、
後一歩で一連の事件の犯人に仕立てあげられる所まで追い詰められてしまう。
 
以下のカットは彼女がウィルスに感染し、正確な判断を失っている状況をよく表している。

このカットは見た目以上に、素子の錯乱っぷりを象徴している。
上記のカットの直後、カメラは引き裂かれた壁の写真へと寄せられる。

だが、これは大きなミスリードだ。
実はこれら一連のカットの中には、
傷ついた壁面や、破かれた写真などよりもよほど雄弁に
彼女の精神異常を表している要素が隠されているのである。
 
それを説明するために、少し時間を遡り、
彼女の周囲の情報を整理し直してみよう。
 
彼女は帰国後、一旦自室に戻った後、
荒巻とクルツに接触し、そのまま再び自分の部屋へと戻っている。

ここで注目したいのが、その際の彼女の部屋の内装だ。

どことなく押井版『攻殻』を連想させる、生活感の無い部屋である。
この中で例外的に人間味を感じさせているのが、
壁に貼られた何枚かの写真だろう。

他に目が行くのはせいぜい、部屋の隅に置かれた観葉植物や
ベッド脇のアタッシュケースくらいのもので、実にシンプルな内装である。
ここで強調したいのが、この部屋が、
素子が帰国した直後のものであり、
言い換えれば、部屋は素子がウィルスに感染する前の状態
のままであるという点だ。

※無論、素子はこのシーンの時点で既にウィルスに感染しており、本当は帰国してから既に数日経ってしまっているので、厳密には部屋が帰国直後の状態であるとは言えない。だが、この部屋の風景は、素子が「海外から帰ってきたばかり」と錯覚するほど、「元の様子のままである」ものとして演出されているのだから、そこは誤差の範囲として扱うべきだろう。

 
さて、では改めて、素子が感染した前と後の部屋の様子を比較してみよう。
あちらにはなくてこちらにはある、これまでは意識していなかった
ある特徴的なアイテムの存在に気づくことができるはずだ。




そう、Microsoft Surfaceである。
 
冷静に考えてみてほしい。
ウィザード級ハッカーともあろうものが、西暦2027年にもなってSurfaceを使うだろうか。
 
思い返せば、本編中、複数回に渡ってSurfaceの広告が差し込まれていた。


キャプ左上の街頭モニターに注目
 
脳波一つで情報のやり取りができる素子がこうした街中の広告に振り回され、
Surfaceを外部デバイスとして使用している事自体、
彼女の普段の冷静な判断が大きく損なわれてしまっていることを表していたのである。
 
ただし、素子の心身の異常は、Surfaceの有無とは関係なく、
腕の痺れなどといった描写を通し、既に視聴者に明示されたものだった。
では、こうして改めてSurfaceが部屋に置かれていた特異性をことさら強調することに
一体どういった意義があるのだろうか。
 
……もう、あまり時間が残されていないようだ、一気に核心に迫ろう。
 
素子はマムロ中佐の電脳に接続し、ウィルスに感染した。
だが、そもそもウィルスは誰が作成したものだったのか?
素子が事件の真相をクルツに確認する際に、こんな会話があった。


素子 どこの組織がウィルスを開発したの?
クルツ 不明だ。海外のブローカーが持ち込んだもので、
ファイアスターターと呼ばれているということしか分からん。

そう、ウィルスを開発した組織は、作品内では明かされぬままなのである。
しかし、我々は既に確信に足る情況証拠を手に入れてしまっている。
それが、あの素子の部屋にあったSurfaceだ。
 
海外に出かけるまでは、部屋の中にSurfaceが無かったにも関わらず、
素子が帰国し、ウィルスに感染すると、数日後には
部屋の中で元気にSurfaceを弄る彼女の姿があった。
つまり、素子はウィルスの囁きに導かれ、Surfaceを購入したのだ。
 
これらの情報が指し示す真実はただ一つ。
ウィルスを開発した黒幕の組織とは即ち、マイクr……おや、こんな時間に誰か来たようだ。