ピングドラムEDのARB「BAD NEWS」にみる幾原監督のイカレっぷり

ピングドラム14話にてED曲として使用された「BAD NEWS(黒い予感)」ですが、原曲についてぶっ飛ぶようなモノを見つけてしまったので今回取り上げてみます。
まず、放送で使われたバージョンをお聞きください。

この「BAD NEWS 」という曲、初めて聴いたのがトリプルHバージョンという人はどんな感想を持つのでしょうか。僕の場合は先に原曲を聴いていたので、「あ、この曲ね」とわりと冷静でいられたんですが。そのARBによる原曲がこちら。

トリプルHバージョンと比べるとファンシーさが抜けて、結構ハードな感じがすると思います。個人的に対比したときのこの感触は「ROCK OVER JAPAN 」に近いものでした。
BAD NEWS 」は歌詞をみてみると「サーチライトがつけねらう」とか「もう誰も 誰一人とて 声を上げて笑わない」等、”黒い予感”漂う印象的なフレーズが多く、それらの退廃的で鬱憤にまみれたものが溜りに溜まって、「クーデターが起こり出す」というサビの部分へと繋がっていく感じは、(意味が全部汲み取れている気はしないんだけど)妙なカタルシスがあって気に入っていたんです。そしてピングドラムトリプルH版ではそのカタルシスをものすごくファンシーでポップな感じに持ってきていて、うまいこと考えたなー、と思ったのです。
ところが、先日の記事用にYouTubeで動画を漁っていてひっくり返ったのです。まあとりあえず見てみてください。「BAD NEWS」は動画の3分50秒あたりからです。

いや、これを見てトリプルHに歌わせようと思いつくのは輪(クル)ってる(笑)
イカレちまってますね。普通その発想はない。「うまいこと考えたなー」どころの話じゃない。正直、原曲版はただ漠然と聴いていたので、当時の社会状況や空気感という事にまでは頭が回らなかったんです。というか、そこまで頭を回そうとしている今でも、感覚的にはよく分からない。当時生まれてないし。そもそも当時の空気感としてこれが主流だったとも思えないんですけどね。
幾原さんはARBを好きな理由について、「バブル期にあって恋愛の歌を歌っておらず、ラディカルな歌詞が多い」ことをインタビューで度々挙げています。WikipediaARBの活動歴を見ると以下のようになっています。

第1期(1977年 - 1983年)
第2期(1983年 - 1986年)
第3期(1986 - 1990年)
第4期(1998年 - )

ARB (バンド) - Wikipedia

バブル期というと、第3期ARBがちょうど当てはまる事がわかります。そして同じくWikipediaで「BAD NEWS 」の発表時期を見ると、1980年(=第1期)という事がわかりますね。ところがよく読むと、1987年(=第3期)に「「BAD NEWS」「DO IT! BOY」のアレンジ版がリリース」されている、とあるのです。上で挙げた動画ではまさしく「DO IT! BOY 」と「BAD NEWS 」の二曲のPVが流れ、動画タイトルに「NEW VERSION 」とあるので、87年に発表されたバージョンに合わせて作られた映像であると見て間違いないでしょう。という事は、幾原監督が「BAD NEWS 」をED曲に指名するにあたり、あらかじめ聞いていたバージョンは87年版である可能性が極めて高く、かつ、上に挙げたPVも見ていた可能性も高いのではないかと思えてくるわけです。
80年代末の国内のバブリーな空気の中、ここまで戦争や抑圧的な雰囲気がプンプン漂うものというのはやはり見る人、聴く人に強烈な印象を与えたと思うんですよ。というか今見ても強烈です。
そしてそこで思い出すのが、先日の記事でも取り上げた、オトナアニメ22号()に載っていた橋本由香利さん(ピングドラムの音楽を担当)へのインタビュー。橋本さんは「幾原監督はなぜピングドラムARBの楽曲を使うことにしたのか?」というような質問に対して、

「(幾原監督が)単に好きだから、みたいですね(笑)。あとは、あの時代のバンドなのに、恋愛の歌詞がひとつもなくて、ラディカルなところも好きだそうです。それを、今の10代の女の子たちが歌って、わけもわからずに「腑抜け野郎ども」みたいなことを言っているのが面白いのではないか、と。

と、答えているのですが、ARBを聴いていた世代というと、恐らくちょうど今の十代・二十代の親の世代に当たる層の人たちが主だったでしょう。しかも曲を見てみると内容はめちゃくちゃラディカル。当時でもそこまでメジャーではなかったと聞きます。それをわざわざ現代の16歳のアイドルユニットに歌わせるってそれ、確信犯的すぎるでしょう。でも、だからこそ
シビレました幾原せんせ〜♪